今年もまた果敢に新たなジャンルに挑戦したホンダ車が姿を消した。――N-BOXスラッシュ。ご存じ「日本一売れているクルマ」たるホンダ N-BOXの派生モデルとしてデビューした。
そのN-BOXスラッシュを高く評価するのが自動車評論家の清水草一氏。スタイルもカッコよく、質感も高い。N-BOXスラッシュは決して魅力がないわけではなく、軽自動車のなかで新たなジャンルに挑んだクルマであった。
そんなところどころにセンスが光ったN-BOXスラッシュに、哀悼の意を込めて、その魅力を今一度お伝えしたい。
文/清水草一、写真/ホンダ、編集部
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センスの良さ光るも2020年2月に生産終了したN-BOXスラッシュ
N-BOXスラッシュが消滅した。すでに2020年2月の段階で生産が終了し、在庫販売のみになっていたのです……。
N-BOXスラッシュが登場したのは2014年12月。私は新車試乗会に参加させていただきましたが、とってもセンスのいいクルマでした。
すでに初代N-BOXがバカ売れしており、その余裕からか、ホンダのクルマ好きたちが、N-BOXをいかにも古典的なクルマ好き方向にアレンジしたブツ。それがスラッシュだったと思うのです。
まず、全高が10センチ低い。そのぶん天井は低くなるけれど、N-BOXなどの軽ハイトワゴンは、もともと天井が高すぎる(私見です)! 前から見ると、乗員の頭上がスカスカすぎて、景色としてマヌケすぎる。そんなに頭上が広々としていたって、網棚付けるわけでもないし……。
N-BOXスラッシュは、そこのところをスパッと10センチ切って、ちょうどいいバランスにした。それでも充分すぎるほど頭上には余裕がありましたからねぇ。広すぎるクルマは貧乏臭い! ちょうどいい広さってものがあるだろう! って思うんだけど、まさにそんな感じ。
リアドアはヒンジを隠して、2ドアクーペっぽく見せていた。もちろん2ドアなわけないんだけれど、その古典的な美意識が涙を誘った。ドア枚数が多いのはカッコ悪い! という、イタリア人的な価値観がまだ生きていたんだね! 号泣。
全高を低くして足回りも1センチローダウンされていたから、安定感が増して、当然のごとく走りは良くなっていた。
このへんはホンダのクルマ好きがやることですから、間違いはありませんでした。もとは背が低いのが正義っつー方向性のメーカーだったんだから!
でも、ただスポーティにしたってわけではなくて、乗り心地は実に上質。決して固くはないけれど、動きが適度にシャープで安定しているという、軽随一の高級な乗り味だった。
今でいう「しなやかスポーティ」という、ドイツ御三家的な方向性ですね。さすがホンダのクルマ好きが作っただけのことはある。
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