クラシカルなデザインを施したオリジナルカーを送り出す小さな自動車メーカー「光岡自動車」が、2020年11月に新型車『グランエースエボリューション』を発表した。
しかし、このグランエースは、一般向けのカスタム仕様ではなく、葬儀業者向けの霊柩車だ。意外かもしれないが、光岡自動車は、搬送車及び霊柩車のビルダーの顔も持つ。
光岡自動車の霊柩車ビルダーとしての歴史と、新型車『グランエースエボリューション』の特徴について、光岡自動車の光岡太進取締役に話を伺った。
文/大音安弘
写真/MITSUOKA
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■米国製霊柩車の輸入から始まった歴史
新車の開発製造から中古車の販売まで、多様な自動車事業を展開する光岡自動車だが、その主力事業のひとつに、長年続けている並行輸入車ビジネスがある。バブル真っただ中の1990年前後の日本では、為替レートがよかったこともあり、並行輸入車ビジネスも活気に溢れていた。
当時の光岡自動車でも並行輸入を積極的に行っており、その中で、少数の米国製霊柩車の販売も手掛けていた。これがのちの霊柩車ビジネスへの本格参入のきっかけになったという。この頃販売していたのが、贅沢なキャデラックやリンカーンなどの高級車をベースとした米国架装メーカーのもの。まさに華やかな時代を彷彿させるエピソードだ。
バブル崩壊後、為替レートが悪化したことで、一時的に霊柩車の取り扱いをやめていた時期もあったそうだ。しかし、ある日、日産『クルー』をベースとしたオリジナルカー『我流(ガリュー)』が霊柩車に改造され、使用されていることを知る。光岡自動車としては、クラシカルな雰囲気を楽しむ趣味クルマであるガリューが、特殊用途の霊柩車になるとは想像もできなかったのである。
■ガリュー霊柩車でビルダーに!
自車の新たな活躍の場を見出した光岡自動車は、1998年頃より『ガリュー霊柩車』を市場投入。霊柩車ビルダーの歴史を歩み始まる。
ただ車両架装のノウハウこそあれど、霊柩車は新たな領域。その開発は手探りであったという。この頃からデザインは、洋型のみとしていた。同時に架装車のバリエーションとして、ショファー向けのリムジンも手掛けるようにもなる。
当初、月1台程度の生産だった霊柩車は、『ガリュー2(日産セドリックがベース)』を投入した1999年頃には、月2台弱まで拡大。基本的には、乗用車の生産が主で、その余力を霊柩車に割り当てたこともあり、生産台数は少なかった。
ニーズが拡大したのは、10年ほど前で、霊柩車が月4台まで拡大。さらに搬送車も手掛けるようになる。搬送車(寝台車)とは、ご遺体を病院から自宅や葬儀場にお送りするためのストレッチャーが搭載できるクルマのこと。そのため、長さのあるミニバンなどがよく使われている。最後をお送りする霊柩車との最大の違いは、棺を納めるかどうか。因みに、法的にはいずれも「霊柩車」の扱いとなるそうだ。
現在の生産体制は、搬送車が年間120台ほど、霊柩車が年間50台ほどとなっており、事業としてはより大きくなっている。以前のように米国製の輸入霊柩車も取り扱うが、販売は年間数台程度とのことだ。
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