■直6の電撃復活! 裏にある意外な逆転劇
では、なぜいま直6を復活させるのか。じつは、そこには意外な逆転劇があったのだ。
かつて直6が廃れたのは、主に衝突安全性の面で長いエンジン全長が不利とされたこと。つまり、パッケージングの問題だ。
ところが、20年経った今日、衝突安全性能(つまりNCAPの星の数)を決めるポイントは、オフセット衝突やスモールオフセット衝突。
昔のように、バリアに真正面からぶつけるテストでは差がつかないため、よりシビアな衝突モードが主流となっている。そして、こういうテストモードでは、逆に正面から見た直6の幅の狭さがメリットとなるという逆転現象が起きているのだ。
また、20年前と比べると格段に厳しくなった排ガス規制も直6復活を後押しした。
現代の内燃機関は、排気マニフォールドの下流にさまざまなシステムがぶら下がっている。ターボ、触媒、PMフィルター、ディーゼルの場合尿素SCRシステムなど、どれもけっこうな体積があってエンジンルームの中はぎっしりだ。
V型エンジンの場合、これが左右バンクそれぞれに配置されるわけだが、直6なら排気側にまとめることが可能。こちらのパッケージングでも、直6に追い風が吹いている。
こうなると、直6の魅力が見直されてくる。よく知られているとおり直6はいわゆる“完全バランス”で、1次、2次はもちろん、偶力振動もバランスしている。シルキーシックスという表現があるくらい、スムーズな回転フィールが持ち味だ。
■電動化が後押しする多気筒エンジン
環境問題を考えると、メルセデスベンツのフラッグシップエンジンが直6となる可能性は大。おそらくそう遠くない将来、V8やV12はAMGなどに少数が残るだけで、その多くが姿を消す運命にある。20年ぶりのベンツの直6復活は、そういった戦略にのっとったものと見るべきだろう。
そういう観点からは、電動化技術がてんこ盛りなことも当然といえる。
この直6(M256)が採用した電動化技術は、いわゆる48Vマイルドハイブリッドだが、その内容はとても「マイルド」とはいえないほど豪華なものだ。
普通の48Vシステムはモーター/回生発電機としてベルト駆動のISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)を使うが、こいつはフライホイール一体型の薄型モーターを採用。
構造を見るとホンダのIMAやスバルのXVハイブリッドと同様だし、最高出力16kW、最大トルク250Nm、容量1kWhのリチウムイオンバッテリーというスペックもそれらを上回る水準にある。
電動パワーに余裕があるから、走行時の駆動アシスト/減速回生はもちろん、電動エアコンや電動ウォーターポンプなどの補機類をはじめ、低回転域でターボをアシストする電動スーパーチャージャーの駆動までやる。
ここまでやるなら、もうちょっと大型のモーターと大容量電池を積んでPHEVにすればいいのにとさえ思うが、おそらくそれは将来のプログラム。マイルドハイブリッド仕様ですらこの豪華ラインナップで出てくるところが、さすがベンツの次世代フラッグシップエンジンというところだ。
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