1983年、7代目クラウンのCMに使用された「いつかはクラウン」のキャッチコピー。この言葉を体現し、クラウンは日本の代表する高級車の一つとなった。
一方で、トヨタには高級車ブランドとして2005年に国内導入されたレクサスがある。トヨタの高級ブランドであるレクサスから、トヨタの高級車クラウンはどう見えているのだろうか。
元レクサスセールスコンサルタントの筆者が、レクサスから見たクラウンの存在を考えていく。
文/佐々木亘、写真/TOYOTA、LEXUS、池之平昌信
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魔法の合言葉「クラウンだから大丈夫」
1955年にトヨペット・クラウンが登場してから66年。その間に14回ものフルモデルチェンジを重ねながら、クラウンは日本の高級車として、確固たる地位を築いている。
2020年5月に全チャネル併売となるまでは、原則的にトヨタ店で専売(一部地域ではトヨペット店でも販売)されていた。
筆者は、レクサスで営業職に就くまで、トヨタ店で営業マンをしていた。当時、トヨタ店で感じるクラウンの存在は特別に大きかったのを覚えている。
多くのお店でショールームの真ん中にはクラウンが置いてあり、顧客からの電話を受ける際「クラウンの○○トヨタです」と出る社員もいた。まさにトヨタ店の看板車種という言葉がふさわしい。
クラウンはオーナーとの結びつきも強い。クラウンを保有するユーザーの多くが、次のクルマもクラウンを選ぶ。
新型クラウンの発表前事前受注はトヨタの他車種と比較にならないほど多く、契約していくクラウンオーナーは実車を見ずに簡易カタログだけで購入していくのだ。
筆者は新人時代、クラウンの事前受注が、あまりに多く不安になった。注文後キャンセルなどにならないだろうかと思い「実車も見ずに契約して大丈夫ですか」と聞くと、クラウンオーナーの多くは「クラウンだから大丈夫」と笑顔で返してくるのだった。
クラウンにはクラウンのファンがいる。
これはトヨタのクラウンだから好きなのではなく、クラウンが好きなのだ。クラウンという一つのブランドを愛し、絶大なる信頼を寄せる。これはメルセデスのEクラスやBMW 5シリーズに乗り続けるオーナーと、どこか似ているように思う。
クラウンオーナーがレクサスを買わない2つの理由
筆者がレクサス営業マン時代、クラウンとよく比較されるレクサスはGSとISだった。
当時、筆者はトヨタ店を母体にするレクサスにいたため、母体店のクラウンユーザーを紹介されることも数多くあった。しかし、実際にクラウンをレクサスに買い替えるユーザーは、半数いるかどうかだ。
商談中のクラウンオーナーから、新型クラウンを買うことにすると断りの連絡をもらう際、よく言われたレクサスを買わない理由が2つあった。「価格」と「車格」だ。
ISを検討していたクラウンオーナーからは、「クラウンと同じくらいの価格なのに小さいクルマ」と、GSと比べると「クラウンと同じくらいの大きさなのに、どうしてこんなに高いのか」と言われる。
クラウンの魅力は、装備や価格・サイズ感などたくさんある。そのなかでも最も大きな魅力は、そのクルマが「クラウンであるかどうか」なのだ。クラウンの販売現場を離れて改めて感じたことだった。
トヨタよりも格上のブランドと位置付けられるレクサスは、高級感や質感の高さが魅力だ。ただし、これはレクサスブランド全体としての魅力である。クラウンオーナーを振り向かせるには、ISやGSといった個々のクルマが、クラウンより愛せる、満足させられるクルマでなくてはならない。
ブランドを訴求するレクサスの一員としては、クラウンという確立されたブランドを羨ましく思った。クラウンのような歴史に裏打ちされたブランド力を、レクサスのクルマたちは、まだ醸成している途中なのである。
クラウンとレクサス「高級」の本質
クラウンとレクサスは、ともにトヨタの高級車というイメージがあるが、高級の捉え方が異なると筆者は思う。
トヨタの小型車から段々と車格を上げていき、「いつかはクラウン」の高みにたどり着いた満足感は、クラウンならではのものだろう。登り詰めて手に入れたこの高級は、達成感と似ている。
対してレクサスの高級は、優雅で快適な生活のようだ。頂を目指して登るというよりも、用意された上質な空間に入り込むのと似ている。
高揚感のクラウンと充足感のレクサス、どちらもいい気分だが性質的には動と静、違う高級であろう。
それぞれの高級があるなかでも、レクサス車種のブランド化は急務だ。ある程度の年月がかかるのは仕方ないが、トヨタ・レクサスには、車種ブランドを確立するまでの道筋が見えているはずだ。現在のクラウンが歩んだ道があるのだから。
まだ、公式な発表はないが、クラウンがSUVとして生まれ変わるのではないかと噂される。
筆者としては、クラウンエステートのような、派生車としてSUVを作るのなら良いことだと思う。ただ、セダンを廃止してというのなら、しっかりとクラウンがもつブランドの礎を、レクサスに引き継ぎ終わるまで待つべきだろう。
今から半世紀後、国内のレクサスは、今のクラウンと同じ66年を迎える。その時レクサスの各車種には、今のクラウンのようなファンがいるはずだ。クラウンとレクサスには、日本の高級車市場を牽引する同志として、今後も二人三脚で頑張ってほしい。