フランスからの新星「シトロエン・ベルランゴ」と「プジョー・リフター」の上陸は、カングー一択に近い状態にあった輸入車ミニバンの流れに風穴を開けた。
たしかに国産ミニバンは多種多様で、シートアレンジなど使い勝手もいいのはわかる。でももっとオシャレで個性的なミニバンが欲しいというユーザーが飛びついたのだ。
そこで再注目したいのが、輸入車ミニバンの世界。彼の地ではMPV(マルチ・パーパス・ヴィークル)と呼ぶが、日本では馴染みがないので、ここでは2列シートのMPVでもミニバンとして紹介していきたい。
いま日本で買える輸入車ミニバンは、どんなクルマがあるのか、モータージャーナリストの大音安弘氏が解説する。
文/大音安弘
写真/PSA、VW、BMW、メルセデスベンツ、ルノー
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■遊び心を擽るお洒落ミニバン「シトロエン・ベルランゴ」

かつては米国車であるクライスラー・ボイジャーも歴代モデルが導入されていたが、グランドボイジャーを最後に2011年に導入を終了。
現在の輸入車ミニバンは、欧州のドイツとフランスに集中している。今回は、日本では、3列シート7人乗りをミニバンと定義することが多いが、今回はMPVと呼ばれる5人乗りのトールワゴン車も含め、ミニバンとさせていただいた。
新デザイン戦略で「カジュアル」&「ポップ」なデザインを前面に打ち出すシトロエンの新ミニバンが「ベルランゴ」だ。かなりボクシーなスタイルだが、適度な丸みを与えることで、洒落た雰囲気を漂わせる。
リアテールゲートには、狭い場所でも開閉可能なガラスハッチが備わる。車内は広々しており、シート表皮もポップなデザインのもの。上級グレードには、開放感あふれる大型ガラスルーフとユニークな頭上収納も備わる。
先進機能は、スマートフォン接続可能な8インチタッチスクリーンと安全運転支援機能を全車に標準化。エンジンは、クリーンディーゼルターボの一択だが、静粛性も高い。フランス車らしい世界観が楽しめるお洒落ミニバンだ。惜しむらくは3列7人乗りシート仕様が日本に導入されていないことだ。
●シトロエン・ベルランゴ主要諸元
ボディサイズ:全長4405mm×全幅1850mm×全高1850mm
ホイールベース:2785mm
パワーユニット:1.5L直列4気筒直噴クリーンディーゼルターボ
最高出力:130ps/3750rpm
最大トルク:300Nm/1750rpm
トランスミッション:8速AT
乗車定員:5人乗り
ラゲッジスペース:597L~最大2126L
価格:317万~354万円
■シックなクロスオーバーワゴン「プジョー・リフター」

シトロエン・ベルランゴと基本を共有するリフターだが、プジョーらしい上質さに加え、SUVを彷彿させるプロテクションを取り入れたデザインで差別化。実際、最低地上高もベルランゴよりも20mm高い180mmを確保する。
先進機能や使い勝手はベルランゴと共通だが、小径ステアリングによる取り回し易さを実現したプジョー独自の「iコクピット」を採用する点も特徴的だ。アウトドアからビジネスまで活躍のシーンを選ばない落ち着いた雰囲気が魅力。まさに大人のミニバンだ。
●プジョー・リフター主要諸元
ボディサイズ:全長4405mm×全幅1850mm×全高1880mm
ホイールベース:2785mm
パワーユニット:1.5L直列4気筒直噴クリーンディーゼルターボ
最高出力:130ps/3750rpm
最大トルク:300Nm/1750rpm
トランスミッション:8速AT
乗車定員:5人乗り
ラゲッジスペース:597L~最大2126L
価格:329万~379万円
■質実剛健! でも個性的で楽しい「ルノー カングー」
最も身近なフレンチミニバンといえば、カングーだ。商用車の流れを強く受け継ぐモデルだけに、まさに機能や装備も質実剛健に徹したもの。特に積載性の高さは抜群で、狭い場所でも最大180度開口可能な観音開きのバックドアが重宝する。
しかし、人気の秘密は、高い実用性だけなく、ゆるキャラ的な愛嬌たっぷりのスタイリングとフランス車らしいのんびりした乗り味にもある。
最新型の現行モデルは、ダウンサイズターボにより、発進加速も向上。何よりもミニバンでありながら、6速MTが選べることでクルマ好きパパからも絶大な人気を誇る。時代が求める先進機能とは無縁だが、時の流れを気にしないシンプルさと価格の手頃さが魅力だ。また定期的に、ボディカラーにフォーカスした限定車を投入するのも見逃せない。
本国では、3代目となる新型カングーが2020年11月に発表され、欧州では2021年3月から発売予定だが、日本では当分先(2022年以降)となるようだ。
●ルノー・カングー主要諸元
ボディサイズ:全長4280mm×全幅1830mm×全高1810mm
ホイールベース:2700mm
パワーユニット:1.2L直列4気筒直噴ターボ
最高出力:115ps/4500rpm
最大トルク:190Nm/1750rpm(※190Nm/2000rpm)
トランスミッション:6速DCT/6速MT
乗車定員:5人乗り
ラゲッジスペース:660L~最大2866L
価格:254.6万~264.7万円
■まるで地上を行く宇宙船!「シトロエングランドC4スペースツアラー」
日本に導入されているフランス車のなかで、唯一3列7シーターを備えるミニバン。その先進的なスタイルは、まるで宇宙船のような未来感に溢れる。シトロエンデザインとしては一世代前となるが、独自路線を歩んできたシトロエンらしい世界観が楽しめるのが魅力だ。
インテリアも同様に個性的で、中央に12インチのパノラミックスクリーンを備えたダッシュボードと頭上までガラスエリアとなるフロントガラスは、インパクト大。
先進の安全運転支援機能機能やスマホ接続可能なタッチスクリーンシステムも装備。ただラゲッジがフルフラット可能など、その作りは至って真面目。なによりも往年のシトロエンチックな空飛ぶ絨毯風味の快適な乗り味が楽しめる。ザ・シトロエンの伝統をしっかりと受け継いだ一台だ。
●シトロエングランドC4スペースツアラー主要諸元
ボディサイズ:全長4605mm×全幅1825mm×全高1670mm
ホイールベース:2840mm
パワーユニット:2L直列4気筒直噴クリーンディーゼルターボ
最高出力:163ps/3750rpm
最大トルク:400Nm/2000rpm
トランスミッション:8速AT
乗車定員:7人乗り
ラゲッジスペース:537L~最大2181L
価格:420万円
■BMW初の3列シート7人乗りミニバン「BMW2シリーズグランツアラー」
BMW初のFF車である「2シリーズアクティブツアラー(2列5人乗り)」から派生したBMW初の7シーターミニバン。全長と全高を拡大させることで、3列シートが収まる居住スペースを確保。
ただし、全長が短いことからも分かるように、3列目は子供向けやエマージェンシーな空間となる。
エクステリアは、BMWらしいスポーティなものだが、その走りは、初期のBMWのFFに加え、ミニバンというキャラクターもあり、BMW SUVのような元気の良さを期待するとやや期待外れ。そのためか、現在はMスポーツのグレードも非設定となる。
パワートレインは、ガソリンの1.5L直列3気筒ターボと7速DCT、ディーゼルの2L直列4気筒ディーゼルターボと8速ATの組み合わせとなる。
欧州ミニバンでは珍しく4WD仕様も用意されるのもメリットだ。またモデルライフも長いため、先進の安全運転支援機能にはやや物足りなさも……。また日本のミニバンと異なり、後席ドアはスライドドアではなく、通常のヒンジドアとなる。
●BMW2シリーズグランツアラー
ボディサイズ:全長4585mm×全幅1800mm×全高1640mm
ホイールベース:2780mm
パワーユニット:2L直列4気筒直噴クリーンディーゼルターボ
最高出力:150ps/4000rpm
最大トルク:330Nm/1750~2750rpm
トランスミッション:8速AT
乗車定員:7人乗り
ラゲッジスペース:145L~最大1820L
価格:423万~531万円
※スペックは218d xDriveのもの
■ゴルフの魅力を受け継ぐミニバン「VWゴルフトゥーラン」
ゴルフ7同様に、MQBで開発されたフォルクスワーゲンのコンパクト7シーターミニバン。ゴルフの名に相応しく、王道をいく作り込みで、実用車としての能力も高め。特に走りでは、ガッチリしたドイツ車の王道的味わいが楽しめる。
また日常でも扱いやすいサイズも美点。しっかりとした作りのシートは、ロングドライブでも疲れにくい。また3列目も大人が座れる広さを確保する。
パワーユニットは、1.4Lターボと2Lクリーンディーゼルターボの選択が可能だが、力強い走りと長距離移動の経済性を求めるなら、ディーゼルがおススメ。またコンフォートラインだと、ディーゼルのほうが装備は充実している。トータルバランスは良いが、後席がヒンジドアとなるのが、唯一の欠点か。
●VWゴルフトゥーラン
ボディサイズ:全長4535mm×全幅1830mm×全高1670mm
ホイールベース:2785mm
パワーユニット:2L直列4気筒直噴クリーンディーゼルターボ
最高出力:150ps/3500~4000rpm
最大トルク:340Nm/1750~3000rpm
トランスミッション:6速DCT
乗車定員:7人乗り
ラゲッジスペース:137L~最大1857L
価格:405.6万~459.6万円
※スペックは、TDIハイラインのもの
■古き良き欧州ミニバン「VWシャラン」
堅牢なボディと重厚な走りが持ち味である欧州ミニバンの王道というべき一台。トゥーランよりもひと回りサイズが大きいため、同じ7シーターでも、キャビンおよびラゲッジともにゆとりが増す。積極的に3列目を使いたい人にもおススメ。
2011年に日本導入されただけあって、VWの中でも一世代前の作り込みとなるが、内装のデザインは、最新世代よりもプレーンだが、質感という面なら、シャランの方が上。またミニバンユーザーに好評な後席スライドドアは、全車が電動式となるのも高ポイント。
VWらしくアップデートもしっかりと行われており、先進の安全運転支援機能も必要なものをしっかりと備える。エンジンも更新されており、ガソリン車だと初期のツインチャージャーから最新型はシングルターボに換装。
ただ多人数乗車や荷物をガンガン積んで、アウトドアを楽しみたいユーザーなら、ツインチャージャーエンジン車のような立ち上がりの良さを見せるディーゼルがおススメだ。最後の旧世代車ということ目新しさはないが、かつての王道的なVWの味わいも楽しめる。
●VWシャラン主要諸元
ボディサイズ:全長4855mm×全幅1910mm×全高1750mm
ホイールベース:2920mm
パワーユニット:2L直列4気筒直噴クリーンディーゼルターボ
最高出力:177ps/3500~4000rpm
最大トルク:380Nm/1750~3250rpm
トランスミッション:6速DCT
乗車定員:7人乗り
ラゲッジスペース:300L~最大2297L
価格:419.9万~540.5万円
※スペックは、TDIハイラインのもの
■クルーザーのような快適さ「メルセデスベンツVクラス」
欧州では、VIPやセレブの送迎車としても使われる高級ミニバン。全車3列7人乗り仕様となるが、3タイプのボディタイプを用意。4905mmの標準、5150mmのロング、5370mmのエクストラロングの3タイプを設定し、用途に合わせたボディの選択が可能。
全車2列目シートは左右独立のキャプテン仕様となり、180°回転が可能で後席の対面シートレイアウトとなるのも魅力。後席スライドドアとテールゲートは共に全車電動式となるのも嬉しいところ。
またテールゲートにはガラスハッチ機能も備わる。先進の安全運転支援機能機能や快適装備は、他のメルセデスに劣ることなく、高級車に相応しい内容を誇る。
シートポジションは、セダンやSUVとも異なり、ワゴン的なもの。スポーティなメルセデスとは印象が異なるが、2.2Lのクリーンディーゼルターボがボディサイズを問わず、力強い走りをみせてくれる。
ただ後席の快適が高いので、前よりも後ろに乗りたくなる。また弱点を挙げれば、FRレイアウトとなるため、床面が高いこと。そして高級車らしい価格帯だろう。それを除けば、まさに無敵な一台だ。
●メルセデスベンツVクラス主要諸元
ボディサイズ:全長5150mm×全幅1930mm×全高1930mm
ホイールベース:2920mm
パワーユニット:2.2L直列4気筒直噴クリーンディーゼルターボ
最高出力:163ps/1400~2400rpm
最大トルク:380Nm/1400~2400rpm
トランスミッション:7速AT
乗車定員:7人乗り
ラゲッジスペース:1030L~最大5000L
価格:789万~839万円
※スペックは、V220dアヴァンギャルド ロングのもの
■見事に棲み分ける輸入車ミニバン
バリエーション豊かな輸入車ミニバンだが、サイズや価格など総合的に評価してみると、意外とバッティングする部分が少ないことに気が付く。
用途や求める機能で自ずと車種が絞られてくる状況なのだ。ただシャランやC4スペースツアラーのように熟成期を迎えた車種も多く、今後のニーズ次第では、終売となると見られる。
それらには新しさはないものの、かつての欧州ミニバンの良き味わいを残している部分も感じられるので、検討する価値は十分にあるだろう。
高級車となると、Vクラス一択だが、こちらは他車よりも後席優先の作りを感じる部分も多いので、その点は十分に考慮すべきだが、ドイツ車らしいしっかりした走りは持ち合わせるので、運転好きなら不満はないはずだ。














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