“大きな羽根”が国産車から絶滅!? 消えゆく高性能車の象徴「ウイング」が示す時代の変化


■燃費志向の高まりやタイヤの進化でウイング要らずの時代に?

床下の形状を整えることによって空気抵抗を減らし、適度なダウンフォースを得られるようになった

 しかしながらウイングの装着は、空気抵抗の増加にもつながる。それでも、より速く走行するには、空気抵抗を上回るエンジン馬力が必要になる。あまり燃費が問われない時代の姿でもある。

 そして、レースの世界でも次第にウイングの空気抵抗が無視できない状況になり、編み出されたのがベンチュリー効果と呼ばれる、車体床下の形状設計だ。

 車体の床下を、翼の下側と同じように湾曲させることで、路面と床の隙間を流れる空気がウイングと同じように車体を地面に押さえつける力(ダウンフォース)を発生するようにしたのである。

 この着想自体は、1960年代末のウイングよりさらに前の、1930年代に、アウトウニオンの最高速挑戦車を設計したフェルディナント・ポルシェ博士が編み出していた。

 しかし、この車体でダウンフォースを生み出す効果は、横風に弱く、床下の気流の流れがわずかに狂うと、逆に車体を持ち上げ、空へ飛ばしてしまう危険性があった。それによって、アウトウニオンの契約レーシングドライバーであったベルント・ローゼマイヤーは死亡する。

 同じような惨事は、1980年代のレース界で再び繰り返されるのだが、以後、床下全体を翼の下側の形状とすることは規制を受け、後輪から後ろのアップスイープと呼ばれる跳ね上げ形状だけが残された。

 そのような経緯を経て、乗用車の床下もアップスイープを模したり、少なくとも床下の凹凸をなくして平らに整えることが行われたりするようになった。それによって、空気抵抗を減らしながら、適度なダウンフォースを得ることが一般的になったのである。

写真は最新のBMW 新型M3。ハイパフォーマンスモデルながら潮流にのって、リアには控えめなリップスポイラーを装備するのみだ

 環境規制の厳しさはさらに増すようになると、燃費のいっそうの向上が求められるようになった。そもそも空気抵抗の基となるウイングの存在が厄介になってきた。そこで、ドイツの高性能乗用車なども、トランクリッドの後端をわずかに持ち上げる程度の造形になってきている。

 あわせて車体全体の形状をより整えることで、そもそも車体が高速で浮き上がりにくい輪郭が形作られていくようになっている。そうしたことが可能になった背景にあるのが、コンピュータシミュレーションだ。

 それまでは、たとえ風洞実験を行っても、目に見えない空気の流れは人間が想像するしかなかった。

 しかし、画像解析により、あたかも空気の流れを見えるかのようにしたシミュレーション技術により、気流の細部まで目で確認できるようになり、空気抵抗が少なく、なおかつ車体を浮き上がらせないような造形の手掛かりが掴めるようになったのである。

 空気の流れだけでなく、タイヤ性能の向上も、高速でのクルマの走行安定性を高めることに貢献している。

 まず構造が、1970年代以降バイアスからラジアルへ替わっていった。また接地面のゴムの粘着力が高まったこと。そしてタイヤ寸法が扁平になることで、接地面積が増大した。それでいて、走行抵抗を減らすようなタイヤ技術も開発されている。

■消えゆくウイングと新しい「格好良さ」への期待

トランクとウイングの間から覗き込むように後方視界を確保する手法も存在した。しかし大きすぎるウイングは空気抵抗の増加につながる

 昨今、大きなリアウイングを装備する車種が減ってきたのは、世界的な環境対応が待ったなしの状況であることに加え、上記のようにさまざまな技術革新によって、走行安定性と燃費の両立がはかられてきているからだろう。

 市場では、ミニバンやSUV(スポーツ多目的車)の人気が高まり、一方で、セダンやクーペの車種が減っていることも、ウイングを装着したクルマを見なくなった要因だろう。

 2030年以降、世界各地域でエンジン車発売禁止の方向性が強まるとともに、電気自動車(EV)が普及するにつれ、新しい格好よさが造形されていくことへの期待がある。

 モーター駆動は、エンジンに比べより緻密な駆動力制御ができるようになり、走行安定性を高められる。スリップゼロを目指すとする自動車メーカーもある。

 また、床下に駆動用バッテリーを配置することで、より低重心かつ前後重量配分の適正化をおこなうことができる。エンジン車のようなラジエターグリルもほぼ不要になるだろう。それによる空気の流れも変わってくるはずだ。

 EV時代の高性能車とは、どのような姿が適切なのか。カーデザイナーの腕の見せどころだと思う。

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