電動パワーステアリング(EPS)が最初に登場したのは、いまからおよそ30年前。
しかし、20年ほど前までは、まだ油圧式パワーステアリングが主流であり、電動パワーステアリングが浸透するまでには少し時間がかかった。
特に操舵感が重要な高級車においては、つい10年ほど前まで、油圧式が採用されていた。
当時は操舵フィーリングがスムーズでなく違和感があったからだ。
現在では、ほとんどのクルマに電動パワーステアリングが採用されているが、操舵フィールに不満を感じないレベルにまで進化してきている。
そこで、最新の電動パワーステアリングは油圧式に完全に追いついたのだろうか? モータージャーナリストの吉川賢一氏が解説する。
文/吉川賢一、写真/ベストカー編集部、トヨタ、スバル、スズキ、ジェイテクト
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■燃費改善方策のひとつとして誕生
普段あまり見ることはないかもしれないが、カタログの後ろにある主要諸元表に、「主要燃費向上対策」という欄がある。このなかに、アイドリングストップ機能や可変バルブタイミングなどに混ざって、電動パワーステリング(以下EPS)も記載されている。
油圧パワーステアリングは、エンジンの動力の一部を使ってパワーステアリングポンプを動かし、パワステオイルを循環させている。
数%とはいえエンジンパワーの一部がオイル循環に食われており、構造上、動かし続けないとアシスト力が得られないため、燃費悪化の1要素となっていた。
また、ハイブリッド車やEVの登場が期待され始めると、エンジンを常に回し続ける必要がある油圧パワーステアリングは、必然的に廃止せねばならなくなり、これもEPSへと移行する要因だった。
手始めに、比較的少ないアシスト力ですむ軽自動車や小型車向けのコラムアシスト式のEPSが登場したのが、1990年代の後半ごろだ。
■操舵力特性を自在に設定できる、理想のシステム
近年の操舵力のトレンドは、「据え切り時は軽く、車速が高くなるにつれて操舵力を増し、ただし保舵力(直進や旋回の状態を保つ目的でステアリングの接線方向へと加える力)は軽くする」という設定だ。
一部のスポーツカーを除いて、BMWやメルセデス・ベンツ、アウディ、フォルクスワーゲンなど、欧州車メーカーの多くは、このトレンドにのっている。
この近年の操舵力特性は、かつて油圧パワーステアリングの時代にはできなかったことだ。
油圧パワーステアリングは、ドライバーがステアリングを回すと、ハンドルから前方に伸びているトーションバーという接手にトルクがかかり、捩じれによって生じた隙間にパワステオイルが流れ、ピニオンギアの回転力をアシストし、ラックギアを摺動させる。
このオイルの流路が広ければ、アシスト力を大きくでき(=ハンドルは軽くなり)るが、トーションバーを大きく捩じることになるため、今度はハンドル操作のダイレクト感が失われてしまう。
ちなみに、古めの欧州車の油圧パワーステアリングが重たいのは、わずかな操舵ミスが事故につながりかねない高速走行が多い欧州環境で、ハンドリングのダイレクト感を損なわないよう、トーションバー剛性を落とせなかったことが一因だ。
それが、EPSの登場によって、車速やハンドルを切る量に応じて、油圧式パワーステアリングよりも、幅広く操舵力の特性をチューニングできるようになった。
低速では軽めの操舵力で楽に据え切り操作ができて、高速走行になるほどに操舵力を増して高い走行安定性を保ち、しかも補舵力は軽めにできるので運転していても疲れにくい。
EPSの登場という技術のブレークスルーによって、かつてはできないことが解消されたのが、いまの操舵力特性だ。
とはいえ、「これが正解」という操舵力特性があるわけではない。EPS主流の現代でも、トレンドは刻々と変わっており、数年後は、またちょっと違う設定が主流となっているかもしれない。
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