■ラックアシスト式電動パワステの登場で大きく近づいた
軽自動車やコンパクトカーといった小さなクルマへ搭載された初期のEPSは、N付近(ハンドルをまっすぐにしたときの中立位置、ニュートラルの「N」)に引っかかりを感じた。
また、あるところから急にハンドルが重たくなる箇所(壁感)があったり、ハンドルからの反力が弱くて「プラプラ」だったり、という課題が多くあった。
どれもEPS機構自体の不具合やチューニング経験不足などが理由だ。商品として出せる水準にまとめられてはいたが、油圧パワーステアリング時代をよく知っていて、ハンドリングにこだわる方たちにとっては、満足いかないレベルだった。
そのため、操舵感が重要な高級車ではEPSの採用が遅れ、そのひとつY51フーガハイブリッドでは、電動で油圧ポンプを回して油圧の操舵フィールを実現する、「電動油圧パワーステアリング」という、ややめんどくさいシステムが搭載されていた。
エンジン停止中でも、ステアリング操作を少し行えば油圧が働くので、あくまで油圧のフィーリングとなっていたが、油圧システムを積んでいたことで、重量アップとコストアップがおき、正直なところ、魅力的とはいえないパワーステアリングシステムであった。
それが、ラックアシスト式EPSの登場によって、油圧パワーステアリングと変わらないレベルの操舵フィーリングの実現が可能となった。
一般的なコラムアシスト式EPSの場合、センシングとアシストを同じ部分で行うシステムのため、ステアリングラックやピニオン部で、余計な動きが発生し、ダイレクト感が得にくいという課題があった。
しかし、ラックアシスト式EPSの場合は、タイロッドを介してステアリングラックに生じた摺動力(ラックを推す力)を、ステアリングラック軸上に設置したアシスト装置で受けることで、高い剛性感をもたせられる。
また、センシングをするステアリング操作軸とモーターアシスト軸の2つに役割を分離できるので、フリクション低減と、スムーズなトルク伝達ができるようになった。これによって油圧パワーステアリングの操舵フィーリングに大きく近づくことができた。
■進化を続けるステアリングシステム
現在、日本車に採用されていて、個人的に「フィーリングがいい」と感じたのが、2017年のレクサスLCに初めて装着され、RAV4やハリアーにも採用されているラックパラレル式EPS(RP-EPS:JTEKT〔ジェイテクト〕製)やレヴォーグに採用されているデュアルピニオン式EPS(DP-EPS:日立オートモティブ製)だ。
新型レヴォーグは、2代目となってハンドリングが大幅に進化していた。
初代はズシリとくる重さが特徴であったが、デュアルピニオン式EPSを採用した新型は軽めですっきりとした印象の操舵力へと変わっていた。乗り比べれば誰でもすぐに分かるほどの進化だ。
ほかにも、V37スカイラインに採用されているステアバイワイヤのダイレクト・アダプティブ・ステアリング(DAS)も秀逸だ。
このDASはKYB製、2ピニオン式のEPSで、ステアリング操作は適切にタイヤへ伝えながらも、路面から受ける振動やキックバックを排除でき、これまでにない「すっきりとした操舵感」が得られる。初めて乗ったときにはその異次元さに感動したほどだ。
また、Cセグメントで世界一売れているVWゴルフに採用されているDP-EPSは、ステアリング操作時の剛性感がひときわ高く、切れ味鋭いハンドリングを実現している。
クラスを越えた静粛性の高さや、足まわりのサスセッティングの巧みさも合わさって、現時点のCセグメントにおけるナンバー1だと、個人的には考えている。
こうしたパワーステアリングシステム本体の進化もさることながら、それらを味付けする自動車メーカーの開発テストドライバーの熟練度向上と、要望に応えるEPS開発メーカーの努力が実っていることも忘れないでほしい。
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