ついにスズキの礎を築いた剛腕が引退へ!! 鈴木修会長の勇退で振り返るスズキの歩み

■ジムニーとアルトの閃き……ともに修会長の感性と信念で売れるクルマに成長した !!

 筆者これまで、スズキに対して世界各地で様々な取材をしてきた。

 そうした中で、スズキの浜松本社に隣接するスズキ歴史館を訪れることが何度もあるが、

 そのたびにスズキの歩みについて肌感覚で捉えようとしてきた。歴代経営者を振り返ると、やはり鈴木修氏の存在感が最も大きく、そして強いように感じる。

 ご存じでない方もいるかもしれないが、そもそも鈴木修氏はスズキ創業者の家系ではない。1930年(昭和5年)1月30日に岐阜県益田郡下呂町(現在の下呂町)生まれで、中央大学法学部を卒業後、愛知県の銀行員として5年間従事した。

 その後、スズキの2代目社長の鈴木俊三氏の娘婿となり、旧姓松田からスズキに入社したのが1958年だ。時はまさに、高度経済成長の前夜であった。ちなみに、鈴木修氏の義父である鈴木俊三氏は、スズキの創業者である鈴木道雄氏の娘婿である。

 さて、鈴木修氏の功績のなかで、現時点でのスズキとの繋がりが強い事案をいくつかピックアップしてみたい。まずは、『ジムニー』だ。

 2018年の4代目登場の際、商品コンセプトが原点回帰だったこともあり、初代ジムニー誕生秘話として、当時は常務取締役だった鈴木修氏と、ジムニーのベース車であるホープ自動車との関係について各種の記事化がなされている。こうした各種記事に影響を受け、筆者自身も4代目ジムニーのオーナーとなった。

初代『ジムニー』は元々ホープ自動車が開発した「ホープスター」の製造権をスズキが買い取り、量産化したもの。売れる訳がないと社内の反対を押し切って量産化を決断したのが鈴木修氏だった
初代『ジムニー』は元々ホープ自動車が開発した「ホープスター」の製造権をスズキが買い取り、量産化したもの。売れる訳がないと社内の反対を押し切って量産化を決断したのが鈴木修氏だった

 現代となりジムニーを深く知ることができたことへの、筆者から鈴木修氏への感謝の気持ちを踏まえて、1960年代後半に初代ジムニー量産に向けた鈴木修氏の決断には、時代の変化を全身で感じ取るような感性があったようにつくづく思う。交渉する相手を、人としてしっかり知ることが第一とし、その上で技術と市場動向を把握する。

 これがのちに、コンピューターならぬ鈴木修氏の「勘ピューター」と一部で言われるような独自の経営手腕となり、スズキを世界的な企業へと成長させることになる。

 そうしたスズキの成長過程で、極めて大きな出来事が、1979年5月にデビューした『アルト』だ。

 「アルト47万円!」というテレビCMは当時、筆者を含めて多くに日本人にとって衝撃的だった。なぜならば、クルマの宣伝はイメージ広告が主流であり、画面に大きく車両価格が表示されることはなかったからだ。

「47万円アルト」の価格を実現すべく徹底的に無駄を排除。エアコンはおろかラジオすらオプションだった。ただ助手席もリクライニングするシートにだけは「お金をかけた」とは修会長の弁<br>
「47万円アルト」の価格を実現すべく徹底的に無駄を排除。エアコンはおろかラジオすらオプションだった。ただ助手席もリクライニングするシートにだけは「お金をかけた」とは修会長の弁

 軽自動車の新車は当時でも60万円程度であり、50万円切りの価格設定は、まるでスーパーの大売り出しのような雰囲気だった。これが近年、ももいろクローバーZを採用して展開する「スズキの初売り」のイメージにも直結する。

 商用車や、一部の男性向けのクルマというイメージが強かった軽自動車を、主婦を中心とした働く女性向けとして企画されたのが「アルト」であり、1978年6月の鈴木修氏の社長就任をきっかけとしてスズキの大変革の始まりだった。

シートの次にはエンジンにお金をかけた? 今も続く軽自動車の64馬力の自主規制は初代『アルトワークス』の登場がきっかけだった。常識にとらわれない思い切りの良さがスズキの風土となった
シートの次にはエンジンにお金をかけた? 今も続く軽自動車の64馬力の自主規制は初代『アルトワークス』の登場がきっかけだった。常識にとらわれない思い切りの良さがスズキの風土となった

 当時の主婦層は、50ccの原付バイクを買い物などに使う人が多かったが、原付バイク3台から4台分の価格で買えるアルトは当然のように、よく売れた。スズキによると初代アルトの累計販売台数は84万4000台に達した。 

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