■フェラーリたる特徴を全て備えたモデル
それは、なんとか手が届きそうなフェラーリ(届かなくなりつつありますが)の中で、最もわかりやすい魅力を備えているからだ。
トンネルバックスタイルでリトラクタブルヘッドライトを持ち、V8自然吸気エンジンはフェラーリ史上最高のソプラノを奏でる。サイズも手頃でキュートだ。これぞフェラーリ! なのである。実際に運転すれば、あのF40をも上回る官能性がある。
新しいフェラーリは、価格帯がまったく別世界。一般人は憧れすら抱かない。乗ってもあまり楽しめない。あまりにも速すぎて公道上では手も足も出ず、逆にゆっくり流せば運転が簡単すぎて手応えがない(乗らなきゃそこまで実感できませんが)。
F355は違う。最高出力は380馬力。実際には330馬力程度で、低中速トルクは薄く、現代の水準からするとあまり、というかぜんぜん速くない。少なくとも速く走らせるためには高回転までブチ回し、あの天使のソプラノを奏でさせる必要がある。それがいい。
電子デバイスはなにもない。かろうじてABSは付いているが、トラクションコントロールもスピン防止装置もない。自分でなんとかしなければならない。「自分を必要としてくれるフェラーリ」なのである。これまた乗ってみないと実感できませんが、クルマ好きならみんなそのことを知っている。
しかも少なくとも一時期、なんとか買えそうな価格帯に降りてきていた。多くの人が、F355を心の中でロックオンしたことがあるはずだ。
それこそが、F355高騰の理由なのである。
■この価格を高いと見るか安いと見るか
確かにF355は高くなった。しかしそれでも1700万円で買える。現行モデルのF8トリブートは3328万円から。新車は最低数百万円のオプションを付けないと売ってもらえないので、乗り出しは4000万円以上になる。それに比べたらF355はべらぼうに安い! しかもF355のほうが魅力的に見えたりもする!
これが360モデナやF430だと、そこまでは感じない。F8トリブートと並べたら、「やっぱり旧型だな」となる。でもF355なら、F8にも負けないオーラを発する! 「1700万円でも安い!」と思うことができる。
ただ、実際に買う場合は、絶対的な条件がある。6MTモデルを選ぶことだ。
F355にはセミATのF1マチックもある。発表当時は、フェラーリをラクに楽しめる新世代のミッションということで人気があったが、時が経つにつれて相場が下降し、現在はヘタすると6MTモデルの半額になっている。
理由は、故障するからだ。しかも、355のF1マチックに限っては、故障が直せない場合がある。
フェラーリだから多少の故障は覚悟すべきだが、直せないとなると話は別だ。
直せないのはF1マチックのコントロールユニットまで壊れた場合で、新品がないためどうにもならない。そこまで行くケースは多くはないが、ポンプその他周辺部品の故障でも多額の費用がかかるし、しかもいつかは必ずどこかが壊れる(らしい)。爆弾を背負っているようなもので、気分はよくない。
操る楽しみに関しても、6MTに劣る。1000万円以下の355F1を買うのは、一種の片道切符だと覚悟する必要がある。安いのには理由があるのだ。
中古車サイトを見ると、現在流通しているF355はわずか18台と非常に少ない。そのうち11台が不人気のF1マチックだ。F355の6MTは、オーナーがなかなか手放さないから流通しないし、売り物が出ても人気があるので広告を打つ必要もない。
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