SUVというよりクロスカントリーと呼ばれるような本格的な悪路走行を目的とした4WD車は、ラダーフレームを採用したものが主流だった。
しかし技術の進歩とともにモノコックボディへの置き換えが進み、これまでフレームボディにこだわってきたランドローバーディフェンダーさえも新型ではモノコックを採用している。
そこでフレームボディの利点と欠点を改めて考えてみよう。
文/塩見智、写真/ベストカー編集部
【画像ギャラリー】モノコックがいいのか、それともフレームボディか……本格派クロスカントリーを見る
■プラモデルを想像するとわかりやすい モノコックとフレームシャシー
クルマにはさまざまな分類のしかたがあるが、モノコック構造とフレームシャシー構造という分け方がある。
大雑把に言えば、前者はボディ(上屋)とシャシー(車台)が一体型の構造で、後者はシャシーの上にボディを載せて固定する構造だ。フレームの上にボディが載っかっているのでボディ・オン・フレーム構造と呼ばれることもある。
タミヤでもフジミ模型でもいいのでクルマのプラモデルを思い出してほしい。まずシャシーに内装や足まわりなどを装着し、最後にボディを被せたはず。言ってみればあれがフレームシャシー構造だ。
実車がモノコックであっても、商品生産の都合、また作りやすさの都合でモデル化に際してフレーム構造になっている。
クルマの歴史が始まった時点から1960年代まで、クルマはおおむねフレームシャシー構造だった。シャシーとボディを別々に作り、途中で合体させるプロセスで生産された。なぜかと問われると困るが、馬車の時代からの生産手法が継続されたのだろう。
自動車メーカーがシャシー(その段階はまるで裸なので「ベアシャシー」と呼ばれる)のみを作り、購入者は別途ピニンファリーナ、ザガート、トゥーリング、ベルトーネといった架装メーカーが作ったボディを注文して組み合わせ、好みの完成車を仕上げるケースも少なくなかった。
■軽くて安くて低燃費 モノコック構造は現代向き!?
いっぽうのモノコックは、一部20年代にも存在したようだが、自動車用としては60年代以降に出てきた構造だ。シャシーとボディを一体化させることからユニボディ構造とも呼ばれる。
元々は航空機が採用した構造で、60年代以降、自動車業界にも広まった。なぜか? そのほうが材料が少なくて済み、軽くすることができるからだ。材料が少ないということはコスト減につながり、軽いということは動力性能や燃費の向上につながる。
安さ、速さ、燃費のよさといえば、クルマの歴史が始まってから今までずっと求められ、これからも求められ続けることだ。そのうえ一体型のため、剛性を高くでき、これも動力性能向上につながり、乗り心地もよくなるとなれば、そりゃモノコックが主流となるわけだ。
けれどもモノコック構造がなじまないクルマもある。典型的なのが貨物車や特殊車だ。はしご型のフレーム(ラダーフレーム)の上にキャビン(乗員部分)とさまざまなサイズ、形状の荷台を載せやすいことに加え、高い負荷に耐えられるので貨物向きというわけだ。
また牽引にも向いている。モノコックのクルマであまり重いものを引っ張って一点に負荷を集中させてしまうとボディが歪む恐れがあるのに対し、フレーム構造なら引っ張る重さに備えてフレームのみ強化すればOK。
そのため、乗用であっても、牽引や悪路走破で負荷がかかる可能性がある一部のSUVやピックアップトラックは現在もフレームシャシーを採用し続けている。トヨタ・ランドクルーザー、メルセデス・ベンツGクラス、ジープ・ラングラーあたりがそう。あと忘れちゃいけないのがスズキ・ジムニーだ。
■フレームからモノコックへの流れが止まらない!?
いっぽうでフレーム構造のクルマとして登場しつつ途中でモノコック化したモデルも多い。日本のSUVブームを牽引した三菱パジェロは初代と2代目はフレーム構造だったが、99年発売の3代目でモノコック構造に変更された。
ただしヘビーデューティーな用途に対応すべく、ビルトイン・モノコック構造を名乗り、モノコックボディの底部分にラダーフレームを溶接した構造を採用した。
90年代といえばRVブームの真っ盛り(まだSUVという言葉はなかった)。当時の2代目パジェロは高い悪路走破性を備えた本格オフローダーというよりも、大きくてゴツくてカッコいいという理由で売れていた。
象徴的なのが94年に登場したトヨタRAV4だ。カローラ系のモノコックをベースとしながら背高で悪路に強そうなデザインを採用し、RVブームに乗って大ヒットした。
一応4WDで、ロードクリアランスもカローラよりは高かったため、ある程度の悪路走破性は備わっていたが、購入層が本格的な悪路走破性を求めていないことを見越し、モノコックで快適なRVを開発したのだ。
この流れを受けてパジェロも3代目で快適性を重視してモノコック化された。また1948年の登場以降、約70年の長きにわたって大きく姿や構造を変えることなく販売され、2015年に惜しまれつつ生産が中止されたランドローバーディフェンダーも、19年にモノコック構造で復活した。
意外なことにトヨタクラウンはライバルが、というよりほとんどの乗用車がとっくにモノコック化した80年代のモデルまでフレーム構造を維持し、91年登場の9代目で初めてモノコック化された。
RAV4で華麗にRVブームに乗って新しい客を獲得するいっぽう、保守層に好まれてきたフラッグシップセダンでは伝統を守るトヨタの商売の巧みさが見てとれる。
■自動車に求める要素に変化が
乗用車の多くがフレーム構造からモノコック構造に変わっていったのは、前述の通り、世の中が年々乗用車に安さ、速さ、軽さを求めるようになったからだ。
生産の都合を考えても、ロボットの導入により、ワーカーがシャシーの上にクルマの部品をおおむね組み付けた後でボディを被せる工程を経ずとも、モノコックボディに開いた孔(後からガラスやドアを装着する部分)にロボットのアームが正確に入り込んで高速で組み立てることができるようになった。
またフレーム構造(と組み合わせられることが多いリジッドアクスル)のほうが有利とされてきた悪路走破性についても、電子制御によって任意の車輪のみにブレーキをかけられるようになり、車輪が浮いてもトラクションを失うのを防ぐことができるようになった。
それによって、モノコック構造(と組み合わせられることが多い独立懸架)でもかなり高い悪路走破性を備えることができるようになった。
ディフェンダーはモノコックで4輪独立懸架という一般的な乗用車と同じ構造となったものの、依然として高い悪路走破性を維持している。
■耐久性や整備性はフレームボディに一日の長あり!!
前述のランドクルーザー、Gクラス、ラングラー、それにジムニーあたりが頑なにフレーム構造を維持するのは、耐久性や僻地での修理のしやすさあたりが理由ではないだろうか。もうひとつは伝統的な構造を守ることで、本格派というイメージを保ちやすいという理由もあるはずだ。
ただ最新のフレームシャシー構造のモデルとモノコック構造のモデルを見比べると、時代が求める動力性能、燃費性能、生産効率の面で、乗用車についてはモノコック構造に分があるのか明らかだ。
クルマにはさまざまな用途があるため、この先もすべてがモノコック化されることはないだろうが、フレーム構造の採用は特殊な用途をもつクルマに限られていくだろう。
今オフローダーが注目しているのは、フレームシャシー界のビッグネーム、ランドクルーザーのモデルチェンジだ。今春をもって現行型が生産中止となり、さほど間を空けず新型が登場すると言われている。
ランドクルーザーは乗用のみならず商用、軍用(テロリストも愛用する)として世界中で悪路走破や牽引といったヘビーデューティーな用途に駆り出されるため、フレームシャシー構造は維持されるはずだが、レクサス版のベースにもなるのでモノコックのラグジュアリーSUVに引けを取らない快適性も求められる。
顔つきこそ多少異なるものの実質同じ中身で大量生産されるその辺のお手軽な乗用車とは違って、大コストをかけるため、ひと世代で10年はもつ先見性も必要だ。トヨタがどういう新型を見せてくれるか大注目だ。





コメント
コメントの使い方