■伝統セダンにも「変化」 BMWやベンツも4ドアクーペ投入
クーペのような外観の傾向は、SUVに限らず、実は4ドアセダンやステーションワゴンでも採り入れられるようになってきている。
トヨタ クラウンも、かつてに比べずいぶん後ろの窓ガラスが傾斜しているし、米国で高い人気を保持するカムリは、現行車の開発段階で格好よいことが何より重視され、クーペのように見える後ろ姿となっている。ホンダ アコードも同様の傾向といえるのではないか。
輸入車では、ドイツのアウディが早くから4ドアセダンの後ろ姿をクーペのように造形し、メルセデスベンツやBMWも同様の傾向がある。そのうえで、メルセデスベンツは、4ドアクーペのCLSを2005年に発売し、現在は3代目まで継続されている。のちに、CLAという小型の4ドアクーペも発売されるようになった。
BMWでは、奇数番号のシリーズは従来から伝統的に販売されている車種で、これに偶数番号のシリーズが加わり、これがクーペやカブリオレといった付加価値のつく車種に位置づけられている。
そうしたなか、2シリーズのグランクーペが4ドアで国内でも人気があり、理由の一つは、駐車枠の幅に制約の多い国内では、クーペのような格好いい外観でありながら、一枚のドアが2ドアのように大きくなりすぎない4ドアクーペが便利でいいところにあるようだ。
スウェーデンのボルボは、人気のステーションワゴンでV90は荷室容量を確保できるリアハッチゲートだが、V60ではV90に比べ傾斜させ、クーペのような雰囲気を与えている。デザイナーもその点を強調している。
使ううえでの合理性では、外観の造形もその目的に合わせた形であるべきだろうが、同時にまた、人間の欲求として、姿がいいことも期待するところだ。それが従来型の合理的造形だけでなく、クーペの姿を採り入れる車種が生まれる背景だろう。
また暮らしの様子も、世界的に大都市化が進行しており、SUVやステーションワゴンのような実用性を求められる車種でも、日常的な都市で移動に利用する機会が増え、積載性などより格好よさが求められる場面が増えていることもあるだろう。
そしてクーペ的な姿となれば、日常の運転操作に対する俊敏性もより高まることになる。
■米国の根強いクーペ人気も背景に
世界的なクーペ人気の一つに、米国市場での根強いクーペ人気があるとの話もある。世界一の自動車市場はすでに中国へ譲ることになったが、それでも米国市場での販売に多くの自動車メーカーは依存している。
その米国では、GMのカマロや、フォードのマスタングが存続するように、スポーツカーほど本格的ではないが、格好よく運転を楽しめる車種として、クーペ人気が根強いようだ。
また、国内では課題となる乗降性も、国土が広く、道幅や駐車場にゆとりのある米国では、一枚のドアの大きさは気にならないのだろう。
ところで、ガソリンエンジン自動車の発明は、ドイツのカール・ベンツによるが、同時に、同国のゴットリープ・ダイムラーも同じ1886年にガソリンエンジンを搭載した馬なし馬車をつくった。
世界初となる両者のガソリンエンジン自動車の姿を見ると、ベンツの方は2ストロークエンジンを搭載した3輪車で、フレームもベンツの自作だ。
ダイムラーの方は4ストロークエンジンを馬車の車体に取り付けた4輪である。
ダイムラーは、ヴィルヘルム・マイバッハとともに、移動するあらゆる乗り物をガソリンエンジンの動力で動かそうとした。船や、空を飛ぶ乗り物にもエンジンを付けた。それが、現在の3ポインテッドスターというマスコットにつながっている。
一方ベンツがつくった最初のガソリンエンジン自動車が3輪であった理由は、ベンツは開発の狙いとして「機動性と実用性に優れ、エンジンと車体が有機的に一体化した自走車」と定義づけ、旋回性能にも優れていることを重視していた。
しかし、当時は前2輪を旋回の軌跡が左右で異なるのにあわせた操舵角にする、アッカーマンという機構が発明されていなかったので、前輪を1輪としたのであった。有機的という言葉を使っていることから、私は馬車ではなく乗馬で馬を操る様子を思い描いていたのではないかとも考えている。
そうなると、ガソリンエンジン自動車の発明された当時、ベンツは操ることを重視した乗り味を狙い、ダイムラーは馬車に替わる実用性を継承する乗り物を考えていたのではないかと想像するのである。
もちろん馬車の時代も、米国の駅馬車のような乗客を乗せる馬車がある一方で、一人乗りや二人乗りで軽快に走る馬車もあった。
いずれにしても、馬が活躍した時代から、操る喜びと、人や荷物を楽に運べる実用性の二つが乗馬や馬車に価値として考えられ、その思いは自動車の時代にも継承されたのではないか。ことに欧米では、誰が定義づけるわけでもなく、実用性と運転の喜びは常に両方が一組で考えられていると感じられる。
馬車の時代を経験しなかった日本人も、成熟した自動車社会となることによって、実用性と操る喜びや、見栄えのよさを求める心が生まれているのだろう。
近年のクーペ人気は、必ずしも伝統的な2ドアクーペではなくても、SUVやステーションワゴン、あるいは4ドアセダンなどで継承された姿といえるのではないか。
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