なぜホンダ「フィット」はライバルの後塵を拝すことになったのか?


 ホンダの屋台骨の一台である『フィット』だが、自販連が発表している販売台数ランキングでは2021年2月が12位、3月は10位と、首位のトヨタ『ヤリス』と3月に4位を獲得した日産『ノート』に比べると伸び悩んでいると言わざるを得ない状況だ。

 なぜホンダとしては意気込んで投入したにもかかわらず、苦戦を強いられているのか? デザイン的な原因なのか? それともほかに問題を抱えているのか? 新型フィットの苦戦の原因を考察していきたい。

文/桃田健史
写真/編集部

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■簡単に言えば、トヨタの強力な販売戦略によるもの

 ホンダの『新型フィット』が日本で苦戦している。フィットの発売開始は2020年2月14日だった。この頃は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響が、まさか1年以上に渡って続くとは誰も予想していなかった時期だ。

写真は現行型のホンダ『フィット』。「心地よさ」を前面に出し、従来のグレード方式と違う、使い勝手に合わせた仕様展開を特徴としている。2021年に入ってからの新車販売台数は、月当たり約6000〜9000台

 その4日前、2月10日には、トヨタが『ヴィッツ』をグローバルと同じ名称の『ヤリス』に改名した新型モデルを発売しており、トヨタがフィットに強い対抗意識があることは明らかだった。

 両車が発売されて間もない2020年3月時点では、フィットが1万4845台に対して、ヤリスは1万3164台とフィットが優勢だった。それが、コロナ禍が感染の第一波、そして第二波と続く中で、ヤリス優先の図式が定着してくる。

 2020年上期では、ヤリス 7万9400台に対してフィットは5万0521台と差がつき、「ヤリスクロス」が2020年8月末に発売されて以降は、単月ではヤリスとフィットの販売台数は2倍近くまで広がっていく。

 さらに、2021年に入ると両モデルの販売台数差はさらに広がり、2020年度(2020年4月から2021年3月)で見ると、登録車トップはヤリスの20万2652台に対して、フィットは6位で9万4311台と完全にダブルスコアになってしまった。

フィットは販売開始から、各月6000〜1万5000台程の幅で推移。対して写真のヤリスは、販売開始後の6カ月間までは月当たり4000〜1万4000台程と大差がなかった。が、ヤリスクロス、GRヤリスの追加以降、合計販売台数が大幅な伸びを見せた

 コンパクトカーカテゴリーでのもう1台のライバル、日産『ノート』が2020年12月23日に発売されても、ヤリスは2021年1~3月の単月トップと堅調だったが、フィットは1月は10位、2月は12位、3月は10位とノートの新車効果をもろに受けたような印象がある。

 こうして、新型フィット登場からの1年2カ月を振り返ってみると、いわゆる新車効果の期間が極端に短く、市場の中でコアとなるファン層が確立しないうちに、新たなるライバルにパイを奪われてしまったといえる。

 では、なぜ日本でフィットの販売は失速してしまったのか?

 理由のひとつとしては、トヨタの強力な販売戦略である。複数のブランドの自動車販売店関係者が証言しているが「我々販売現場では、到底太刀打ちできない」という声が上がるほどトヨタの販売店は攻めている。

 背景としては、トヨタは2020年5月から全販売店全車種併売体制となり、ヤリスに限らずトヨタ販売店間での熾烈な販売競争の中、コンパクトカーセグメントを一斉に取りに行った結果として、同時期に発売されたフィットがトヨタ販売店各社の標的になったともいえる。

■それとは別に根深い問題…彷徨う「ホンダらしさ」

 だが、フィットの販売実績が伸びないのは、こうした販売現場での攻防だけではなく、もっと根深いところにあるように思える。

 フィットという1モデルにおける、デザイン、動力性能、燃費、そして価格がライバルと比べてどうかという視点だけではなく、ホンダとしてのクルマづくりの在り方、またホンダという企業の有り様にも深く関係しているのではないだろうか。

ユーザーの嗜好・方向性に合わせて展開されるフィット。だがいっぽうで、現在のホンダという会社の嗜好・方向性、はたしてしっかりと固まっているのか、そしてユーザーに届いているのか?

 具体的には、「ホンダらしさ」に対して、現在のモデルラインアップにおいては、本田技研工業(本社)と本田技術研究所それぞれの中で、「明確な方向性」が確立されていない印象がある。これが、自動車関連メディアがここ数年間に渡り言い続けている、「ホンダに元気がない」という表現に結び付く。

 1970年代の排気ガス規制の中で登場したCVCC、スポーティな走りを身上とするVTEC、

『シティ』や『オデッセイ』など独創的なデザイン、さらに走る研究室とも言われてきたF1など、「ホンダらしさ」の記号性は、ユーザーにとってわかりやすいものだった。

 だが、1990年代以降はアメリカ市場重視のモデル戦略となり、2000年代に入ると中国市場や経済新興国BRICs市場での生産と販売拡大の重要性が高まり、そのためグローバルで年間販売台数600万台構想を描くも、開発体制のさまざまな部分で”ほつれ”が生じてしまった。

 こうした状況に陥ってしまったホンダに対する、外科手術を施したのが前社長の八郷隆弘氏だった。その上で、ホンダ改革の一丁目一番地は、「本社と研究所の融合」であることは、ホンダ関係者であれば誰でもがわかることだ。

 ホンダは本社が商品企画やマーケティングなどを行い、具体的な研究開発は本社とは別会社である研究所が行うという、世界的に見ても珍しい組織体系を持つ。創業者・本田宗一郎氏が構築した「ホンダらしさ」の象徴である。

 だが、時代は大きく変わり、ホンダ自身も大きく変わる必要が出てきた。そこで、まずは研究所の中で、先行開発と量産開発に対する組織改編を行い、次に研究所全体の組織を変え、そして本社との量産部門を事実上統合するというステップを踏んできた。

本田技研工業と本田技術研究所の統合によって、これからどんな「ホンダらしさ」のある商品展開を見せてくれるだろうか

 こうしたホンダ史上、最大級の組織再編の中で、筆者はさまざまな機会に本社や研究所の人たちと情報交換する機会があったが、皆一様に「ホンダらしさとは何か?」を改めて自問自答しているような雰囲気があった。

 そんな中で、フィットのフルモデルチェンジの作業が進んでいった。

次ページは : ■「レーシングスピリッツ」と今の「ホンダらしさ」の間にあるギャップ

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