■思い出の中と変わらぬ姿でアッソはあった
そんなアッソ・ディ・フィオーリの“実車”は、40余年前の当時とまったく変わらぬ姿でホールにあった。
傍らに添えられたスペック表には、全長4195mm、全幅1620mm、全高1278mmとある。
これはプロトタイプが発表された時の数値で、量産型の最初のピアッツァが全長4310mm、全幅1655mm、全高1300mmだったのに対して、全長で-115mm、全幅で-35mm、全高で-22mmと、実はひとまわり小さいボディサイズなのだった。
が、実車に対面して改めて実感したのは、そのサイズ差をいささかも感じさせなかったことだ。
加えて、レストア時に当初のプロトタイプもペイントも忠実に再現されたというシルバーのボディ色(アッソ、ピアッツァにもっとも相応しいボディ色だと思う)もあり、特にサイドビューの伸びやかさはこのクルマならではのもので、実に存在感がある。
ボディサイズだけでなく、ノーズ部分の高さ、前後ウインドゥの傾斜、細部ディテールなども、プロトタイプのアッソ・ディ・フィオーリと量産のピアッツァとでは異なる部分だ。
けれど量産型ピアッツァにデザインが落とし込まれても、その美しいバランスが崩れなかったのはピアッツァ発表当時に評価された部分だ。
正直なところ僕は、ピアッツァ発表当時にはその違いが少し“引っかかって”いた。特にフロントガラスやAピラーの傾斜の違いは、「やはりプロトタイプのほうがシルエットがよりスムースでいい……」と密かに思っていたものだ。
が、不思議なことに今回アッソ・ディ・フィオーリに対面し、撮影のためにカメラのファインダーを覗きながら、頭のなかで、「あれ、ピアッツァと一体どこが違っていたのだろう……」との思いが込み上げてきた。
40年を経て、量産型ピアッツァは決してデチューンではなく、「このアッソ・ディ・フィオーリのスタイリングの美しさが忠実に再現されて登場したクルマだったのだ……」そう思い知らされた。
■あの頃の風景はアッソとともにかくも美しく
よく優れたスタイリングのヴィンテージカーのことを“今でも通用するスタイル”などというが、アッソ・ディ・フィオーリは、今でも通用するどころか、今でも何歩も先を行くとさえ思える内・外観のデザインを纏っていたのだ。
何を隠そう、僕自身、ピアッツァと117クーペはどちらも両車それぞれが現役の時代に愛車として乗っていた経験をもつ。両車ともモーターショー会場でプロトタイプを見て憧れ、発売を心待ちにし、ディーラーでもらったカタログをヨレヨレになるまで眺め、そして乗ろう! と決めたクルマだ。
その1台、アッソ・ディ・フィオーリの現車に今回触れることができたのは、甘々な表現だけれど、昔の恋人に再会できたような面持ちだった。クルマはそのものの記憶のみならず、その時代背景、自分のライフステージとともに思い出に残る。
その思い出とはかくも美しいものだということを、アッソ・ディ・フィオーリが教えてくれた気がする。
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