■万全の準備を終えていざスタート!!
「段取り八分仕事二分」とはよくいったものだ。準備だけでかなりの労力だった。
さあ、いよいよ5月22日午後3時にレースはスタートした。
スタート直後は2台3台とまとめてコーナーに飛び込んでくることも多い。そういうシーンはマシンが隠れていない限り、まとめて1枚の写真でもOKとした。まずは数時間、淡々とこなしていく。霧雨もあるが幸いにして雨具を装備するほどではない。
夕方になり、自分の5メートルほど後ろの金網の外にいる観客がBBQを始めた。風向きが完全にこっちだ。「あれ?霧が強くなったな?」と思ったら焚き火の煙がモクモクとモーレツ直撃。眼にしみて涙が……。
しかしそれは試練の序章にすぎなかった。午後8時ごろ、まず右手の指が攣り始める。中指と薬指がくっついて離れなくなり、思うように動かない。生まれて初めて左手でシャッターを押す。水分補給をしてなんとかごまかすが、飲みすぎるとトイレの問題があるのでゴクゴク飲めない。
夜がくると、マシンのヘッドライトが超絶まぶしい。このまま一晩これを続けたらと眼をやられると感じ、主にコーナー立ち上がりの後ろ姿を撮る作戦に変更。
午後9時(6時間経過)。「もう充分頑張ったじゃないか! 休もう!」と悪魔のささやきがガンガンやってくる。「なんでこんなことやってんだ?」と後悔の雑念とともについに1台のクルマを撮り逃してしまう。
体力・集中力の限界とはこういうことなのか! まだ1/3も終わっていない。とても24時間なんてムリだ。
けどもう少しだけ頑張ろう! と続けていると、たまにFCYというサービスタイムがやってくる。コース上に止ってしまったマシンを安全な場所に移動させるためなどにコース上の全マシンがいっせいにスローダウンするのだ。
通常だと数秒おきに来るマシンが15秒程度来ないような状態にもなり得る。その時は電源の残量チェックや水分等の補給、手首ブラブラのリフレッシュタイムとなる。
午後11時ごろ、1台めの蓄電器から2台めへとコンセントを差し替えるのに、手がうまく動かず手間取ってしまい15台ほどを撮り逃す。体制を立て直し、安定して続けていたら、今度はモーレツな眠気が襲ってきた。
栄養ドリンクかコーヒーでも飲みたいところだが、「利尿作用」が怖いのでNG。脚立に座っても立っても眠い。数分に1度あるようなわずか5秒間ほどマシンの来ない魔の時間に眼を閉じてしまうようになる。だがなんとか自分をだまし続け、午前3時。
半分が終わった。まだ暗いうちにポンチョをかぶり密室にして携帯トイレの世話になる。その間、非情にもレーシングカーは次々と通過していくが、やむなし。なんとトイレを12時間以上我慢していたことになる。
午前5時、美しい朝焼け。炎上した車両回収やコース整備などでセーフィティカーが導入されるが赤旗(競技中断)はなし。午前中は晴れたり曇ったり。
■とうとう幻覚が……カメラの一脚に自身が支えられ
レースも残り5時間ほどになったころ意識を失いかけ、変な幻覚をみた。自分の背後に川が流れているから、絶対に後ろに倒れてはいけないよ! という感じの夢? だ。いや、いっそ倒れて運ばれれば楽になるような気もしてきた。
ベルボンの頑丈な一脚につけた機材を支えているはずの自分が、今その機材にしがみついて逆に支えてもらっているような感覚すらある。
お昼をすぎ、幸いにして天候は曇り。あと3時間! やっと先が見えてきた。
もう眠気も幻覚もない。疲労を超越したのか? けどペットボトルのキャップを開ける力がわいてこない。なぜか自分の上空ではカラスかトビが飛んでいるが、判別不可能。意識朦朧としつつ、ついに温存していたおむつのお世話にもなった。
そして……ファイナルラップはあっけなくやってきた。後でリザルトから計算すると眼の前を31416台のマシンが通過したらしい。
撮り逃しは自分のカウントで160台ほど。ピンボケなどの失敗作もけっこうあるが、それは含んでいない。全車全ラップ記録の夢は幻となった。でも99.4%の達成率といえば聞こえはいいのか? 燃え尽きて「真っ白な灰」になっちまった感はあるが、100点満点ではないので達成感はない。無念だ。
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