近年は設計思想や技術開発の方向性の共通化でも成果
それでも、近年は単にモノとしてのプラットフォームや使用部品の共通化ではなく、設計思想や技術開発の方向性の共通化が成果を生み出している。象徴的なのが、トヨタのTNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)だろう。
目指すべき性能目標を立て、それを満たすことのできるプラットフォームや部品を設計し、それらを同じ車格の幅広い車種へ展開することにより、性能と車種ごとの商品性を高めようという手法だ。
こうして生まれたのが、現行プリウスであり、これに続いてRAV4やハリアーがモデルチェンジをおこない、販売も好調だ。
トヨタ傘下のダイハツも、DNGA(ダイハツ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)によって、得意とする軽自動車技術を極めながら、こちらは格上の登録車へも展開しようという発想で、コンパクトSUVのロッキー/ライズの販売にこぎつけ、人気を得た。
かつてのグローバルカーというと、ただ部品などを流用することで安上がりに新車を開発しようとの思惑が強かったが、現在ではより品質や性能の高い車種を生み出すため、基本性能を高めて波及効果を得ようという概念に変ったといえる。
このことは社内の組織変更も伴う話だ。つまり、車種ごとの新車企画や開発ではなく、全社的な販売戦略の共有化のなかから、発売時期の前後を含めた複数の車種の規格構想が行えなければ実行できない手法だ。縦割りではなく、横展開可能な組織づくりがカギを握る。
グローバル化の歪みが国内専売車を生む矛盾も
一方で、グローバルカーという発想が、通用しにくくなっている側面もあるだろう。
たとえば、ホンダ アコードやシビックは、米国市場を主体に車両企画や開発が行われた結果、国内には大きすぎる車体寸法となり、ことにシビックにおいては車名の由来ともいえる市民のためのクルマというより上級車種の趣になり、かつてのアコードの価値を備えるに至ったのではないか。
スバル レガシィも、米国市場主体の車体寸法を採り入れることで国内には適応できなくなり、レヴォーグという新たな車種を追加することになった。しかも、4ドアセダン人気が落ち込んでいるとはいえ、ステーションワゴンのみに絞った車種展開である。
それらの事例は、やはり世界共通では販売しにくく、売り上げ増を期待できる市場を主体とした開発がおこなわれるようになったことを示す。近年のドイツ車は、かなり中国市場寄りの車両企画ではないだろうか。
世界戦略車の弊害と原点回帰
メーカーの都合としては、販売実績が保持できたり高まったりすれば満足だろう。だが顧客にしてみれば、永年愛用してきた車種が海外市場向けとなり、代替えする候補がなくなったり、別のクルマになったりすることで、気持ちが離れてしまうことにもなりかねない。
こうしたことは日本車だけで起きたことではなく、世界的にも同じ車格のグローバルカーが市場競争の中で車体寸法を拡大し続けたことによって、消費者の反発を受けはじめているようだ。
例えばメルセデス・ベンツでさえ、世界でBMW 3シリーズやアウディ A4と競合することでCクラスの車体寸法が大きくなりすぎ、ハッチバック車だったAクラスに4ドアセダンを設けることになった。
グローバルな価値という考えには落とし穴がある。そして消費者の気持ちや思いを無視したメーカー同士の販売競争の弊害が出てきたといえそうだ。
それは寸法の大きさや価格や性能だけでなく、外観や内装の造形においても、世界で販売するといいながら主力市場を意識するあまり、別の地域では相容れない趣をもつようになってきていると感じさせるところがある。
消費者の立場からすれば、内面の技術や性能は世界的に共通性を持っても、車体寸法や内外装の造形などは、地域の実情や感性にあった商品を提供してくれることが理想だ。
つまり、数の論理だけでの存続は難しく、グローバルカーという発想や言葉は、クルマの未来を必ずしも明るくはしないだろう。
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