■トランスミッション最後の戦い
さて、そんなわけで今やトランスミッションは生き残りをかけた最後の戦いというフェーズにあるわけだが、この勝ち抜き戦に参加しているトランスミッションは以下の4種類だ。
(1)老舗のマニュアルトランスミッション。
(2)ATとしてはもっとも伝統のあるトルコンステップAT。
(3)欧州メーカーが好むDCT。
(4)日系メーカーが得意とするCVT。
まず、第一回戦で最初にぶち当たったのは(1)と(3)。つまり、MTとDCTだ。
内部の機構をよく見るとわかるのだが、じつはMTとDCTはよく似ている。というか、MTをベースにシフト機構とクラッチ機構を自動化したのがDCTと言ってもいい。
なんでそうなったのかと言えば、とりわけ欧州のユーザーにトルコンAT嫌いが多かったからではないか、ぼくはそう思っている。
高級車ユーザーは別として、一般的な欧州のドライバーは燃費の悪いクルマが大嫌い。また、小さいクルマになればなるほど、トルコンATにすると走りもモッサリになりがちで、これまた普通のユーザーは敬遠しがち。この辺が欧州マーケットでなかなかATが普及しなかった理由といわれている。
その問題点を打破したのがDCTだった。
DCTの変速ギア部分は基本的にMTと同じだから、走りのキビキビ感や燃費性能についてはMTと同等がそれ以上。それでいて、発進時やシフト時のクラッチ制御はコンピュータが自動的にやってくれるわけだから、これなら走りにウルサイ欧州のユーザーも納得というわけ。
DCTを最初に大々的に売り出したのは、VWの「DSG」だったが、それを皮切りに欧州市場を中心に大きくシェアを拡大。これによって、MTの役割はほぼ終わったといっていい。
一回戦第二試合は、(2)と(4)。トルコンステップATとCVTの戦いだ。
前述のとおり、トルコンステップATは「いわゆるオートマ」としてはもっとも老舗で、アメリカ車を中心に60年代には一般化していた。
ただし、初期のトルコンステップATは運転は楽チンでも効率は最低。細かいことを言わず大排気量アメリカンV8と組み合わせてる分にはイイが、コンパクトカーにはとても使い物にならない大雑把なミッションだった。
このトルコンステップATを革新したのはトヨタを中心とする日系自動車メーカーだった。FFコンパクトカーにも対応する横置きの小型ATなどは、ある時期日本の特産物だったほどで、現在でもボルボやPSAがアイシンのATを使っているのはその名残りだ。
いっぽう、小型FF車に複雑精緻なトルコンステップATはコスパが悪い。他にイイ手はないかということで生まれたのがCVTだ。
量産車に初めて採用したのはフィアットかスバルかで両論あるが、その後の発展を考えると日系メーカーが主導したといって間違いない。スバル→日産→ホンダと採用メーカーが増え、2L以下の日本車のATがCVTが主力といっていいほど普及した。
CVTの魅力は無段階変速という特性を生かした燃費効率の高さにある。動力伝達に金属ベルトを使うため、トルク容量の制約や高負荷時の効率悪化などの問題はあるにせよ、モード燃費の計測パターンみたいな「ゆるい走り」には最高の効率を発揮する。
ドライバビリティに関しては、欧米マーケットではいわゆる「ラバーバンドフィール」が嫌われがちだが、日本を含むアジアマーケットでは意外にすんなり受け入れられたようで、DCTと対照的な地域依存があるように思われる。
というわけで、この一回戦第二試合、まずは新進のCVTが老舗トルコンステップATを打倒したと評価してもいいだろう。
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