■デートカーとして親しまれたホンダS-MX
S-MXは全長を切り詰め、サードシートを取り去ったステップワゴンと言えるRVだ。ハードウェアやパッケージングの考え方はステップワゴンと同じである。だが、ターゲットはファミリーではなくカップルを中心としたパーソナル派の若者だ。だから乗車定員は4名と割り切ったし、前席はベンチシートとした。ドアも運転席側は1枚のワンツードアで、その気になればダブルデートみたいな使い方もできる。
ステップワゴンと同じ2Lの直列4気筒DOHCエンジンは、ちょっとだけチューニングされ、ドライバーをいい気分にさせてくれた。また、標準仕様のほか、車高を下げ、サスペンションを引き締めた「ローダウン」を設定しているのも特徴のひとつだ。気持ちいい走りを満喫できる粋なローダウン仕様が、デビュー時の売れ筋となっている。
これ以降、若者向けの変わり種モデルが続々と登場する。その多くはコンパクトカーで、キューブ、キャパ、ミラージュ・ディンゴ、ファンカーゴなどが増殖し、一大マーケットを築いた。
2000年にはトヨタが初代ヴィッツをベースにしたバニング感覚のbBを、コンパクトカーの販売を得意とするネッツ店に投入している。コンパクトだが、ボクシーなスタイルが目を引いた。また、若者好みにサスペンションをライトチューンしていたから小気味よいドライブフィールを楽しめる。実際にはちょっとスポーティな街乗りグルマだったのだが、S-MXと同じように一時はヤングカップルご用達の人気車として持てはやされた。
■初代bBは初期受注が3万台を超えたヒット車
S-MXやbBはファッション感覚や流行に敏感な若者が飛びついている。ちょっとドレスアップしたり、カスタムして乗る若者も多かった。S-MXは最初の1年は月販1万台に迫る台数を記録する。
bBはもっとすごく、初期受注は3万台を超えた。2001年6月には、さらに個性的なオープンデッキを送り込んだ。だが、bBの好調はS-MXを苦境に追いやっている。2002年春に生産を打ち切り、夏には市場から姿を消していった。
bBは2005年秋に2代目にバトンタッチする。2代目はダイハツ製だったから、1年後にダイハツから兄弟車のクーが登場した。また、8年になるとスバルからデックスがデビューしている。季節商品だから廃れるのが早いと思われた。補助金が出ないために苦戦を続けたが、驚いたことに細々と販売を続け、16年夏まで生き延びたのである。流行り廃りの早い変わり種としては奇跡と言えるだろう。
■街中で見かけると思わず振り向いてしまう変わり種的存在
間もなく生産終了から20年になるから、さすがにS- MXは街で見かけなくなった。が、bBの2代目は今でもたまに街中で見かけるし、中古車市場でも見かける。
両車が若者を魅了したのは、小さくても強い存在感を放っていたからだ。ドレスアップして乗るのも楽しい。また、リーズナブルな価格設定も若者が飛びついた理由のひとつだ。1.3Lも出るなら120万円台から新車が手に入り、1.5Lのトップグレードでも160万円台だった。
今、この価格だと軽自動車しか買えないだろう。それも廉価グレードに限定されてしまう。ベース車があれば、bBのような若者向けの洒落たハイトワゴンを生み出すことは難しくないだろう。ヤリスのプラットフォームやメカニズムを使い、スキンチェンジしただけで新しいクルマを誕生させることが可能だ。
クルマ離れが叫ばれているが、今、面白いクルマを作れば若者は興味を持つはずである。しかも、初代アルトのようにリーズナブルな価格や衝撃的な低価格なら、若者じゃなくても欲しがると思う。かつてあった「若者向けジャンル」の「変わり種」モデルは費用対効果が大きく、うまく作れば起爆剤にもなる。 21世紀にふさわしい、新感覚のS-MXやbBの登場を心待ちにしたい。
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