現在、日本で市販されているEVにおいて、1速固定の変速機構ではないクルマは、ポルシェ タイカンのみ。
ハイブリッド車であっても、有段トランスミッションを持つクルマはほんのひと握りで、レクサス LSやLC、クラウン(トヨタFR向けマルチステージTHS II)と、シーマ、フーガ、スカイライン(日産FR車用インテリジェントデュアルクラッチコントロールハイブリッド)といった、ごく一部の高額車に限られている。
クルマの電動化のなかで、存在感を失いつつあるトランスミッション。将来、ハイブリッドを含む電動車がもっと主流となったとき、トランスミッションがなくなってしまうのだろうか。
文/吉川賢一
写真/HONDA、池之平昌信、LEXUS、Porche AG
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ギア変速の必要がないモーター駆動
回転数をある程度上昇させないと所望のトルクが発揮できないガソリンエンジン車の場合、トルクが強く出る回転領域(トルクバンド)に入るよう、発進時や登坂時には低速のギアを使い、速度が乗り始めたら中速のギアにシフトアップ、さらに高速走行になれば高速ギアへとシフトアップが必要となる。その際、少なからず、変速ショックを伴う。
対して、ゼロ発進時から最大トルクを発揮できるモーター駆動の場合、もっともトルクが欲しい発進時や登坂路から、市街地などの中速域、高速道路などの高速領域まで、変速をせずに走行することが容易にできる。
これは、高速走行になるほど、必要なトルクが少なくなることが関係する。例えば、3段変速の自転車でギアを3速に入れた状態だと、ゼロ発進時よりも、スピードが乗っている時の方が、踏力は少なくて済む現象と同じだ。
さらに、BEV(=Battery Electric Vehicle=バッテリー動力のみで駆動するEV)の場合、現在の現実的な最高速度は140km/h程度で、ガソリン車のように200m/h弱でアウトバーンをカッ飛んでいくような使い方は、電力消費が激しすぎるため、向いていない。
BEVに向いているのは、市街地・郊外などでストップアンドゴーしながら平常走行するシーンであり、トランスミッションがなくても、実用速度領域をカバーできるようつくられているBEVに、多段トランスミッションは必要ない。
また、「省スペースで済む(バッテリーレイアウトに使える)」、「整備がしやすい(トランスミッションの整備が不要)」というメリットもある。
こうした背景から、当面は、国産のBEVは1速固定のものが主流となるはずだ。
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