■本物のスタントマンをスタントマン役で起用
と言うのも、今回の4人の女子のうちふたりが映画のスタントマンと言う設定で、そのひとりゾーイは休暇を利用して米国を訪れ、夢の車を運転したいという。その車が440エンジンを搭載した白い70年型ダッチ・チャレンジャー。
この車、カーアクション&ニューシネマ&ロードムービーの傑作と言われている『バニシング・ポイント』(71)の主人公コワルスキーが乗っていたもので、この作品を愛するふたりのスタントマン女子は、それと同仕様の車をもつ男に頼み込み試運転をさせてもらう。
そのときにゾーイがトライするのがシップマストと呼ばれるスタント。
走る車の左右のドアフレーム(実際のダッチ・チャレンジャーにはドアフレームがないので、撮影用にわざわざ取り付けている)に結んだベルトにつかまってボンネットに腹ばいになるのだが、そのときを目掛け、マイクが車を猛スピードでぶつけてくる!
前半のエピソードではマイクが車をぶつけてきただけで女子たちは悲惨な結果を迎えたが、今回は最強の女子たちである。どんだけマイクがぶつけてきても、すぐに立ち直り立場は徐々に逆転して行く。
ここでもうひとつ要チェックなのが、スタントマンのゾーイ。実は彼女、本名もゾーイ・ベルで、本当のスタントマン。ニュージーランドからハリウッドに進出し、タランティーノの『キル・ビル』シリーズ(03、04)でヒロインのユマ・サーマンのスタントダブルを担当。
その才能に感動したタランティーノが、まさに彼女のために書き上げたキャラクターだったのだ。だから、マイクが時速100マイル(160キロ)の速度でガンガンぶつけてくる衝撃により、車のボンネットの上で彼女が転がりまくる、ハラハラ度マックスのスタントもすべて本人がやっている。
■古き良き映画を愛するタランティーノはデジタル一切ナシ!!
車ファンの見どころはここから。デジタルなんて存在していなかった、かつての時代の映画を偏愛するタランティーノなので、カーアクション映画もそのスピリットで作っている。つまりデジタル処理は一切ナシ!
本人の言葉で説明してもらうと「デジタルは一切ナシだ。車の速度を遅くして、あとから速く見せかける、なんてことも一切していない。100マイルで疾走する車を撮るためには、110マイル(177キロ)で走らなければいけないんだ。もちろん、オレはその車に乗ってカメラを回していたんだから!」
というのも本作でタランティーノはカメラマンも兼任しているからだ。ちなみに、女子が集まるバーのオーナーとして出演もしているので、脚本・製作・監督・撮影・出演という大活躍っぷり。彼の入魂っぷりが伝わって来る。
そしてまた、おたくなタランティーノなので、さまざまなかたちでカーアクション映画にオマージュを捧げている。たとえばスタントマン・マイクの最初の車シボレー・ノヴァのナンバープレートは『ブリット』(68)でスティーブ・マックィーンが乗っていたマスタングと同じ「JJZ109」。
後半で乗る69年型ダッチ・チャージャーはダーティ・メリー/クレイジー・ラリー』(74)でピーター・フォンダが乗っていたものと同車種で、ナンバープレートも同じ「938DAN」。
ホイールは、やはり同じ車を使用していたTVシリーズ『爆発!デューク』(79~85)にちなんで同じアメリカンレーシングのものと凝りまくり。
また、その2台のマイクの車についているラバーダックのボンネットマスコットは、サム・ペキンパーの『コンボイ』(78)で、主人公が乗っていた車と同じもの。タランティーノ曰く「『コンボイ』で実際に作った人と連絡が取れたので、オリジナルの型から作ってもらった」。
これらのカームービーに留まらず、映画ネタはてんこ盛り状態。それをチェックするために何度も楽しめるのがタランティーノ映画でもあるのだ。
最後に、タランティーノが公開時に教えてくれた、カー・ムービーのベストをご紹介したい。
「もちろん『バニシング・ポイント』だ。あとは、やっぱり『ダーティ・メリー/クレイジー・ラリー』と最初の『マッドマックス』(79)。
もちろん『フレンチ・コネクション』(71)のチェイスシーンは最高だし、『ジャグラー/ニューヨーク25時』(80)のジェームズ・ブローリンとクリフ・ゴーマンのチェイスも凄いよ!」
ちなみに『ジャグラー』は全編チェイス映画。人と車でごった返すニューヨークを舞台に、車や電車、足を使ってお父さん(ブローリン)が娘を誘拐した犯人(ゴーマン)をひたすら追いかけるというだけの、かなりカルトな作品。
これをカームービーとして入れるあたり、やっぱりタランティーノである。
●解説●
自らをスタントマン・マイクと名乗る謎の男。彼はテキサスの人気DJジャングル・ジュリアと女友だちに目を付け、そのあとをつける。彼女たちは行きつけのバーでアルコール&ドラッグを思う存分、楽しむが……。
ヘンタイ野郎のスタントマン・マイクをカート・ラッセルが演じている理由は「オレ、カートの大ファンなんだよ。とりわけジョン・カーペンター作品のときの彼は最高だ。『ニューヨーク1997』(81)、『遊星からの物体X』(82)、『ゴースト・ハンターズ』(86)……全部大好きだ。
実は今回、バーのうしろのほうに、『~ハンターズ』で彼が着ていたタンクトップも飾られているんだ。チェックしてくれよな!」とタランティーノ。
また、音楽にも常に凝りまくるタランティーノが最後のクレジットに流す曲として選んだのは、フランス・ギャルが歌ってヒットした64年のフレンチポップス『娘たちにかまわないで』。
耳に残るメロディとフランス語の響きは軽く意表を突く選択だが、歌詞は本作の内容に見事にシンクロ。つまり、最後の最後までちゃんと楽しめてしまうタランティーノ作品だった。
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発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
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