クルマのトラブルは何の前触れもなくやってくると思いがちだ。しかし、たいていの場合、その直前に何らかの「前兆」がある。「音」や「振動」、「臭い」、「光」といった人間の五感に訴える現象によってだ。
このため、普段とは「なにか違う」と感じることができたなら、最悪の事態に陥る前に対処することも可能となる。
こうした異音はどこから来るのか? こんな異音が聞こえたら、どこが異常なのか、どうすれば解消するのか、クルマメンテナンスに精通する鈴木伸一氏が解説する。
文/鈴木伸一
写真/ベストカーweb編集部 Adobe Stock(トビラ写真 miya227@Adobe Stock)
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■どこから音が発しているのかしっかり聞き取ろう
普段とは「なにが違う」と感じることの多いブレーキ関係。例えば、フロントのディスクブレーキの純正パッドには「パッドウェアインジケーター」と呼ばれる摩耗センサーが装備されており、ブレーキパッドのライニング部分が限界まで摩耗するとブレーキローターに接して警告音を発する構造になっている。
万が一にもライニング部分がなくなってしまうと制動力が極端に悪化。ライニングベースの金属面が露出してしまった場合、ブレーキディスクを傷付けることにもなるからで、限界摩耗時には周期的な「キッキッキッ」っという音を発する。もしもブレーキング時に、このような金属を擦り合わる音がフロント足回りから聞こえたときは要注意! ただちにプロに点検を依頼したい。
同じく足回りから聞こえる異音で注意したいのが、走行時のみ発する「ゴー」とこだまするような音。この手の異音でもっとも怪しいのはホイールの回転軸部に組み付けられている「ハブベアリングの不良」で、ベアリングのガタ付きや摩耗が考えられ、悪化して焼き付いたりすれば突然走行不能に陥ることもあるため要注意だ。
FFや4WDでハンドルを切ってアクセル踏み込んだときに「ゴリゴリ」という音が聞こえたときは、ドライブシャフトに組み付けられた「等速ジョイントのトラブル」の疑いが濃厚だ。
FFや4WDのドライブシャフトにはサスペンションの上下動やステアリング操作によってあらゆる方向への曲げ力が加わる。このため、どのような方向に曲げられた状態でもスムーズに駆動力を伝達することができる「等速ジョイント」と呼ばれるジョイントを介してホイールに接続されている。
そして、このジョイント部分には防水・防塵を目的とした「ドライブシャフトブーツ」でカバーされているが、このブーツにも同様なストレスが加わる。
特に操舵も担っているフロント側の負担は高く、年数が経過すると確実にヒビ割れ、放っておけば切れて内部に水が侵入。等速ジョイントがサビたりガタ付くなどのトラブルに発展し、異音を発するようになる。
そうなってしまったらドライブシャフトごとのAssy交換となり、高額の修理費がかかることになるので注意したい。ちなみに、ブーツ切れの初期の段階で気付いたならブーツ交換で対処できるため、ドライブシャフトブーツの劣化の兆候(ヒビ割れ)を発見したときは、ただちにブーツ交換を依頼したい。
また、ホイールナットの締まり具合は滅多にチェックしないと思うが、絶対緩まないという保証はなく、タイヤ脱着時に締め忘れることも。万が一にも素手で回るほど緩んだ状態で走ってしまった場合、振動と共に加速時に物を叩くような「コツン」という音が、スピードに追従して連続して発生する。
もしも加速時にそのような異音が聞こえてきたら要注意! ただちに安全な場所に停車して、ホイールナットの絞まり具合を確認したい。
足回りの異音でもう1つ注意したいものがある。それは「パンク」だ。空気が抜けてペシャンコになると、押し潰れたサイドウォール(タイヤ側面)が波打って路面にたた叩き付けられるため、路肩に寄ったときに「バシッ、バシッ」と路面を叩く反射音が聞こえてくる。
近年のクルマはサスペンションの性能向上によってパンクしてもハンドルが振られるなどの異常がつかみにくい傾向にあり、パンクしたまま走り続けてしまいがち。
空気が抜けきった状態で長い距離を走ってしまうとタイヤばかりか、ホイールがダメージを被ることがあるので注意! 周期的に路面を叩く異音が聞こえたり、ちょっとでもハンドリングに異常を感じたなら、すぐに停車してタイヤをチェックしたい。
■特に注意したいエンジン回りからの異音
さて、エンジン回りから発せられる異音はトラブルの前兆の最たるものだが、原因が異なるにもかかわらず似たような音を発するケースが多々ある。
例えば、補器類の駆動ベルト(いわゆるファンベルト)が緩んだり劣化するとスリップして「キュルキュル」という音を発するが、A/Cコンプレッサーのテンショナーに組み付けられているアイドラプーリーの「ベアリング不良」でも似たような音がする。
これと似たような例として、MT車のクラッチのパイロットベアリングが不良になったときにも、同様の異音を発する。ただし、このケース場合はクラッチを繋いだ直後に発するため、注意していればすぐに判別できる。
このように似たような異音ながら、原因や部位がまったく異なるケースが往々にしてあるため、問題部位の特定はどのような状況下で、どんな操作をしたら発生するのか等々、発生状況から総体的に判断する必要がある。
また、金属の叩音でも軽い音だったら意外にたいしたことはない。問題となるのは重い音で、最初は他の雑音に紛れるほどの小さかったものが徐々に、あるいは突然音量が高まったときは要注意! 次の段階として焼き付いてロックする危険性があるからだ。
そんなエンジン回りの異音でもっとも遭遇しやすいのが「キュルキュル」というベルト鳴きだ。走行に必要な電気の発電を担っている「オルタネーター」やカーエアコンの動作に必須の「ACコンプレッサー」、冷却水の循環を担っている「ウォーターポンプ」、そして油圧式パワーステアリングの「油圧ポンプ」といった補機類は、エンジンの回転力をベルトで伝達することで駆動されている。
この駆動ベルト、スリップすることなく駆動力を伝達するために、常に一定のテンションがかけられている。そんな状態で高速回転しているため、使用していれば伸びて張りが緩み、年数が経てば経年劣化で弾力も失われる。
その結果、加速時やステアリングの据え切り等、負荷がかかったときにスリップして「キュルキュル」という異音を発生。スリップすると伝達力が弱まるため、状況によってはオーバーヒートやバッテリー上がりといった二次的なトラブルを誘発することにもなる。
ところが、近年主流の「Vリブドベルト」と呼ばれるタイプは張る圧力が強くて簡単には緩まず、4万~5万kmは楽にノーメンテで走れてしまう。それゆえ点検を怠りがちで、明確な不具合症状が現れるまで気付かずにいる人が多い。ダメになるときは突然、一気に逝くので注意したい。
その駆動ベルトに回転力を伝えるという重要な役割を担っているパーツが「クランクプーリー」で、エンジンの回転力を取り出すクランクシャフトの先端に取り付けられている。
この「クランクプーリー」、見た目は単なる金属の塊だが、エンジン始動時や加速時など瞬間的な衝撃がファンベルトに伝わるのを防止するため、内輪と外輪の間に衝撃吸収用のダンパーが組み込まれている。その衝撃ダンパーの材質は経年劣化するゴム。走向距離が延びたり、年数が経過すると確実に劣化し、切れて空回りするようになる。
初期症状としては始動時や補機に負荷がかかったときに「キュルキュル」と、ベルト鳴きと酷似した異音が生じるため勘違いしやすく、適切な対処を遅れがち。張りは正常で劣化の徴候も見られないのに「ベルト鳴き」のような異音を発したら要注意!
試しにプーリー側面にマーカーで、端から端まで1本線を記入してエンジンを回してみたい。エンジンを止めたときに1本線のままズレなければ問題ない。
が、もしも内周と外周にズレを生じたなら、ダンパーが切れて空回りしている。そのままでは症状は悪化する一方。ベルトで駆動されている補機類が全て同時に、動作不良に陥ることになるため、ただちに「クランクプーリー」を交換する必要がある。
■どんな「音」がどの「辺り」から、どんな「タイミング」で聞こえたのか最低限把握しておこう
さて、このようにひと口に「異音」といっても発生部位や原因はさまざま。特に、さまざまなパーツがこすれ合っているエンジンルーム内は雑音の宝庫。正常時にどんな音が聞こえるのか把握していないことには、異音が発せられたとしても気付くことができない。
それゆえ、正常なときにはどのような音を発しているのか確認しておくことが何よりも大切! 始動直後やアイドリング時、走向状態に愛車がどのような音を発しているのか、確認しておきたい。
そして、もしも聞き慣れない音が発せられたときは、どんな「音」が、どの「辺り」から、どんな「タイミング」で聞こえたのか?
最低限これだけは把握したい。点検時の重要な指針となるからで、プロに修理を依頼するにしても、これが明確かどうかで点検にかかる手間と時間が大幅に違ってくる。結果的に修理も早く完了するからだ。





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