■衝突安全性のために大型化された軽規格
近年の軽自動車規格は、1998年に定められ、車体寸法が以前に比べ大型化した。1960年代の初代日産サニーやトヨタカローラの横幅と同等にまで大きくなっている。
その目的は、登録車との衝突においても、同等の乗員安全性能が得られるようにするためだ。交通社会のなかで、互いに安全を確保することをコンパティビリティ(共生)というが、その要望が1990年代後半に強まったからである。
それが、1999年の自動車アセスメント情報の提供開始にもつながっている。
したがってそもそも23年前から、衝突安全性能においては軽自動車と登録車の差がなくなるような取り組みが行われてきた経緯がある。
実際、今回の日産デイズの自動車アセスメントのための衝突実験の映像(YouTube)を見ると、前席後席ともシートベルトとエアバッグによって乗員の生命の確保が行われている様子がわかる。
一方、かつてほかの自動車メーカーで衝突実験の様子を見た経験からすると、軽自動車と登録車を直接オフセット衝突する実験からは、車両自体の安全性能は同等であっても、車両重量の軽い軽自動車は衝突後に車体が跳ね飛ばされることを知った。
実験場内でのことなので明確には言えないが、車道から歩道あるいは道路の外へ出てしまうほど車体は飛んで行った。転倒することはないが、道路わきに居る歩行者が巻き込まれる可能性は考えられ、また道路の外へ飛び出せば畑などへ転落することも考えられる。
■デイズは予防安全装備も充実
したがって軽自動車の乗員の命が守られる可能性は高いが、二次事故に至る懸念は否定できない。つまり、軽自動車が登録車と衝突して安全かどうかという問いに対し、乗員は大丈夫だろう、ただし、周囲の通行者への二次被害を生じる可能性は残るということだ。
そこで、事故を起こさないための予防安全の重要度が増す。
予防安全でのレヴォーグとの点数差について、デイズにはハイビームの状態で前を走るクルマや対向車の運転者への幻惑を防ぐ機能が搭載されないため、減点となっていると思われる。
それでも、デイズは車線維持機能を含め、被害者をなくすだけでなく、運転者が加害者となる危険を予防できる予防安全が充実している様を映像から知ることができた。
■事故自動緊急通報装置
今年10年を迎えた日産と三菱自動車工業の合弁企業であるNMKV(日産・三菱・軽・ヴィークル)によって企画・開発されたデイズと三菱自のeKワゴンは、基本的に同じクルマだ。
両車とも試験が行われたが、それでもデイズのみが5つ星を獲得できたのは、事故自動緊急通報装置の搭載の有無であろう。ほかの自動車メーカーでも、上級車種に車載する事例はあっても、軽自動車にまで採用するのはデイズだけではないか。
なぜ、デイズは採用できたのだろう。
理由は、電気自動車(EV)の本格導入を日産が真剣に考え、取り組んだ成果ではないかと思う。
初代リーフを市場導入する際、まだ充電の社会基盤は充分に整備されておらず、国の支援も行われていなかった。そうした時代に日産が行ったのは、すべての販売店へ急速充電器を設置する準備だった。これにより、40km圏内に急速充電拠点があるよう日産自ら充電基盤整備を行った。
そのうえで、日産は充電器の情報をカーナビゲーション上で検索できるようにするだけでなく、オペレーターが支援する仕組みも取り入れた。
運転者自ら検索してもうまく探しきれない状況で、ボタンスイッチひとつでオペレーターを呼び出し、最寄りの充電器を検索してもらい、そこまでの道順をカーナビゲーションに設定することまで行っていた。
実際に利用した経験があるが、オペレーターの対応は大変親切かつ丁寧で、これがあることにより、以後充電への心配がいっぺんに吹き飛んだのである。
結果的に初代リーフの販売実績は年間平均1万台程度に落ち着くのだが、EVの拡販を目指すことで顧客への心理的負担を軽減する対応を行った日産には、数多くの人々からの問い合わせに対応するオペレーター支援をいかに行えばよいかとの知見が残ったはずだ。
軽自動車は、今日の新車販売の3~4割を占めるとされ、昨今の性能・品質の向上による商品性の高さもあってその傾向は今後も変わらないだろう。そうした時、事故自動緊急通報装置を搭載し、それが作動した際の支援を賄える基盤を、日産は初代リーフで築くことができたのではないか。
一方、上級車種のグレード別や注文装備程度の数しか設定してこなかったメーカーは、軽自動車にまで事故自動緊急通報装置を搭載するほどの支援体制を築くには時間を要するだろう。
今回の最新の自動車アセスメント基準において、デイズが軽自動車として初めて5つ星を獲得したことは、単に一車種の優劣だけでなく、企業としてこれまで取り組んできたさまざまな面での成果が評価されたといっても過言ではないのではないか。
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