■不調の原因はどこにあるのか
不調の原因がどこにあるのか。それが突き止められれば光も見えてくるのだが、SUGOでの第4戦を終えても山本とチームがこれぞ!という答えを見つけた様子はない。
可能性としての原因はいくつも考えられるが、まず浮かぶとしたらマシン個体の何らかの異常だろうか。実は山本と同じ悩みを抱えていたのがKONDOレーシングの二人で、『何をどうやってもマシンが思うように挙動せず、アンダーとオーバーがコーナーごとに変わる』症状に苦しんでいた。
目に見える部分に問題はなくても、目視で判断できないモノコックの内部などになんらかの瑕疵があれば、レーシングマシン本来の速さで本来の性能を発揮することは難しい。実はこの疑惑、SF19が導入された’19年当時からささやかれていた。出荷時の製品検査が万全だったのかどうかを疑う人もいる。
ただ山本の場合、燃料が重い状態だとマシンの挙動は比較的安定しており、日曜朝のウォームアップでトップ5に入るタイムをマークしたり、決勝でもそれなりに力強い追い上げでポイント獲得もしている。
燃料の軽い予選はグリップ感が得られずに苦しんでも、フルタンクの決勝はそこそこ安定して走れるのなら、モノコックに何らかの瑕疵があるという疑いは成り立たないかもしれない。
■原因を探り出すのは現時点では困難か
そのあたりをハッキリさせるためにも、マシン全体を検査すると良いのだが、製造元であるイタリアのダラーラ社で行うにしろ国内のどこかの施設でするにしろ、検査には時間と手間と費用がかかり、いずれにせよシーズン中に行うのは難しい。
そこまで面倒なことをしなくても、山本と大湯のマシンを交換して走るという手もあるが、これまた現実的ではない。シーズン中に全チーム参加で行うタイヤテストはとっくの昔になくなっており、マシンやタイヤとじっくり対話しながらセッティングを熟成させる、なんてことは夢のまた夢。
ドライバーとチームはレースウィークの週末サーキットにやってきて、短時間でその時々のコンディションに合うようマシンをセットアップし、パッと走ってパッとタイムを出すというインスタントな戦いを強いられている。チーム単独でサーキットを借り切る大盤振る舞いもバブル時代の夢の跡。
いまはシミュレーターが発達しているのだから実走時間が少なくても問題ないと考える人がいるとしたら、ハッキリ言おう、それはドのつく素人だ。レースにおいて仮想の上に現実が100%成り立つことなど絶対にない。
■浮き沈みは当たり前、とはいうものの……
「チームに問題があるわけではない。大湯選手が予選決勝で結果を出しているのだから」と、ノーポイントでSUGO戦を終えた山本の沈んだ口調にふと考えた。
山本の目標は、いまどこにあるのだろう。
3度目の頂点を極めた現チャンピオン、絶対王者として新しいチームでもタイトル獲得を目指すのはもちろん立派な目標だ。しかし山本はこの7月でやっと33歳。カート時代から数えるとレース歴27年の大ベテランだが、世間的にいえばまだ30代前半の、これから仕事の幅を広げて成長していく年代の若者だ。
いつもの顔、いつものライバル、いつものコースを走るだけで自分を高めるといっても、個人の努力や思いだけでは天井を突き破るのにも限界がある。
もし、まったく新しいチャレンジの扉を示されたら山本はそれを叩くだろうか。例えば佐藤琢磨を追ってインディ、あるいはアキュラを駆ってIMSA等々。これまでの人生を賭けた挑戦になるかもしれないが、山本なら背中を押されて引くことはなかろう。
長い人生、仕事の上でも浮き沈みなどあって当たり前。とはいうものの、「過去のことは忘れてイチからやり直します。しっかり原点に戻って頑張ります」と、視線を落とす姿を見るのは忍びなさ過ぎる。
いまはただ山本とチームが1戦、1セッション、1周でも早く、王者の誇りと輝きを取り戻すきっかけをつかむことを祈るのみだ。
コメント
コメントの使い方