フェラーリがPHVの296GTB発表! これはスーパーカー「だからこそ」の電動化!?

■先にマクラーレンが2021年2月にPHVのアルトゥーラを発表

マクラーレンにより”ハイパフォーマンス・ハイブリッド・スーパーカー(HPH)” とカテゴライズされたアルトゥーラ
マクラーレンにより”ハイパフォーマンス・ハイブリッド・スーパーカー(HPH)” とカテゴライズされたアルトゥーラ
アルトゥーラのPHEVシステムは、車両中央に7.4kWh のリチウムイオン電池を搭載。トランスミッションに内蔵されたモーターを駆動する。電気だけの走行も可能で、EV航続距離は30km
アルトゥーラのPHEVシステムは、車両中央に7.4kWh のリチウムイオン電池を搭載。トランスミッションに内蔵されたモーターを駆動する。電気だけの走行も可能で、EV航続距離は30km
マクラーレン・カーボン・ライトウェイト・アーキテクチャー(MCLA)を初採用。写真は、そのキャビン兼基本骨格となるカーボンファイバーモノコックだ
マクラーレン・カーボン・ライトウェイト・アーキテクチャー(MCLA)を初採用。写真は、そのキャビン兼基本骨格となるカーボンファイバーモノコックだ
アルトゥーラは標準的なEVSEケーブルにより、2時間半で80%まで充電可能。もちろん、エンジンによる走行中の充電もできる
アルトゥーラは標準的なEVSEケーブルにより、2時間半で80%まで充電可能。もちろん、エンジンによる走行中の充電もできる
先進運転支援システム(ADAS)も、マクラーレンとしては初採用した
先進運転支援システム(ADAS)も、マクラーレンとしては初採用した

 先陣を切ったのはマクラーレンだった。2021年2月に全く新しいシリーズモデル、アルトゥーラを発表。新開発のバンク角120° 3リッターV6ツインターボに電気モーター&バッテリーを加えたプラグインハイブリッドのスーパーカーが誕生した。

 遅れること4ヶ月、今度はフェラーリもパワートレーン的にはよく似たプラグインハイブリッドモデルを発表する。その名も296GTB。

 跳ね馬伝統のネーミング手法に則って解読すれば、2.9リッター(実はほぼ3リッター)の6気筒エンジンを積んだGTベルリネッタ(=クーペ)で、名前そのものはかの名車ディーノを彷彿とさせる(206もしくは246GTB)。

 ここ数年、フェラーリがV6エンジンを積んだ新たなミドシップカーの開発を進めていることは公然の秘密だった。多くのファンがディーノの復活を期待していたが、果たしてそれは叶わず。

 それどころか296GTB(おそらくそう遠くない将来にはGTSが出るだろう!)はV8モデルの弟分では決してなく、さらなる高性能を秘めた、跳ね馬エンブレム付きとしては初めての6気筒ロードカーとしてデビューしたのだった。

 ちなみにレーシングカーの世界ではF1を筆頭に数多くの6気筒モデルが存在する。また、その昔には4気筒エンジンを搭載した跳ね馬エンブレムのロード&レースカーもあった。

 前述したようにパワートレーンの構成そのものはアルトゥーラのそれととても似る。こちらも120°V6ツインターボ+モーター+バッテリーで、8速DCTの後輪駆動というところまで同じ。

 けれどもこれは、現時点でV6エンジン搭載のミドシップ2シーター・プラグインハイブリッド車を開発するにあたってお手本というべきソリューションである、ということに過ぎない。つまり、似て当然なのだ。

 むしろそれ以外、パフォーマンススペックはもちろんのこと、ボディ骨格やシャシー制御といった重要なパートも含めたトータルパッケージの違いが、それぞれのブランドのオリジナリティであり、モデルごとの魅力ということになるだろう。

■6月24日に発表されたフェラーリ初のPHVのV6モデル、フェラーリ296GTB

296GTB。名前の通り「ベルリネッタ」の系譜だ
296GTB。名前の通り「ベルリネッタ」の系譜だ
デザインは250LMを現代の観点から捉え直し、サイズは先代GTBよりコンパクトに仕上げた
デザインは250LMを現代の観点から捉え直し、サイズは先代GTBよりコンパクトに仕上げた
テールデザインは、「テスタロッサ」や「F355」のテーマを継承しているという
テールデザインは、「テスタロッサ」や「F355」のテーマを継承しているという
フロントフェンダーの峰がシルエットを特徴づけるフロントフェイス。デイライト下にはブレーキ用のエアインテークが備わる
フロントフェンダーの峰がシルエットを特徴づけるフロントフェイス。デイライト下にはブレーキ用のエアインテークが備わる

 アルトゥーラと296GTBのパフォーマンススペックを比較して、まず気付いたことが両モデルは同じ土俵に向けて開発されたモデルではなかったということ。これを理解しておかないと、スペックだけをみて、やれマクラーレンの負けだ、やれフェラーリの勝ちだ、と間違った判断をくだすことになる。

 アルトゥーラは2965万円という日本の価格を見ても570Sなどスポーツシリーズの後継に当たっている。性能的にも570Sを大きく上回ってはいるけれど、スーパーシリーズの720Sには及んでいない。

 対する296GTBはというと、F8トリビュートを大きく上回るパフォーマンス数値で、車両価格も邦貨に換算して4000万円前後スタートである。

 マラネッロはF8後継ではなく新たなレンジ、シリーズだというが、この先V8ミドはさらに上級の“トップ・オブ・レンジ”モデルとしてSF90ストラダーレ系3モータープラグインハイブリッドシリーズに集約されるだろうから、事実上、V6PHVがV8ミドの後継になっていくだろう。

 マクラーレンが今後、720Sや765LTといったスーパーシリーズのスペックを上回るPHVモデルを発表したとき初めて、296GTBとの対決も可能になると言っていい。

 モデルのポジショニングが理解できたところで、296GTBの概要を見ていこう。3リッターV6ツインターボは新開発のF163型だ。バンク角120°としたことで短く、低く設計することができた。

 2つのターボチャージャーはそのバンク内に挟み込まれる。いわゆるホットVターボ。SF90から使う8速DCTと新開発120°V6エンジンとの間にアキシャルフラックス式電気モーターを挟み込み、後輪のみを駆動する。ここまで字面的にはマクラーレンと全く同じ。ちなみにバッテリー容量もほぼ同じでアルトゥーラ 7.4kWhであるのに対し296は7.45kWh。

 違うのはスペックとボディ、そしてサイズだ。まず296用F163型V6は単体で663psを発揮する。リッターあたり221psはフェラーリロードカー史上最強の数値。モーター出力はアルトゥーラの倍近い167ps。つまりシステム出力は830psとなって、F8の720psを大きく上回った。

 もっともこれはハイブリッド&バッテリーシステムによる重量増を相殺するためのパワーアップであり、乾燥車両重量はF8より140kg重くなったため、パワーウェイトレシオの伸びは意外に小さい。それでもF8の1.85から1.77へと引き下げてきたあたりにマラネッロの意地をみた。

 アルミボディの床下にバッテリーを敷いた296に対して、アルトゥーラはマクラーレンお得意のカーボンボディ骨格にバッテリーを埋め込むという手法を採った。アルトゥーラ の乾燥車両重量はなんと1395kgに抑えられているが、エンジン単体出力が585ps、モーターが95ps、システム680psのためパワーウェイトレシオは2.05に留まる。

 さらに詳しく比べると、V6エンジンのボア×ストロークの考え方がまるで違うことにも気づく。フェラーリは完全にショートストロークで高回転型を狙った。

 そのサウンドは12気筒を彷彿とさせるらしい。対するマクラーレンは数値的にも真逆のロングストローク。軽量な車体と電気モーターの特性を生かした加速パフォーマンス重視の設計思想と言えるだろう。ちなみに296のボア88mm・ストローク82mmはSF90用V8とまるで同じ。さらにいうとマセラティの新開発90°V6ネットゥーノユニットとも同じである。

296GTBのV6ツインターボは単体で663psを発揮。システム出力は830ps
296GTBのV6ツインターボは単体で663psを発揮。システム出力は830ps
アルトゥーラのV6ツインターボエンジンは最高出力585psで、システム出力は680ps
アルトゥーラのV6ツインターボエンジンは最高出力585psで、システム出力は680ps

 ボディサイズでは296のホイールベースが2600mmと、F8やアルトゥーラに比べて4、50mm短いことが特徴だ。その他のサイズはほとんど同じだから、見た目にも296のほうがちょっと短く塊感のあるように見えるはず。

 このあたりからもまた、重くなった分を運動性能で相殺したいというマラネッロの思いが伝わってくる。せっかく短いV6エンジンを積むのだから、と……。

次ページは : ■296GTBの性能はどうなのか?

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