■全体的にフィットの優れた面が目立つ
走行安定性と操舵感は互角だ。フィットは走行安定性を重視して、後輪の接地性を優先させた。下り坂のカーブで危険を避けるような時でも挙動を乱しにくいが、峠道などを走ると曲がりにくく感じることもある。
ヤリスは逆で、今のクルマでは珍しく、後輪の接地性は追求していない。その代わり軽快に良く曲がり、峠道では車両の進行方向を内側へ向けやすい。フィットは安定性、ヤリスは曲がりやすさを重視した。
乗り心地はフィットが有利だ。全般的に硬いが、突き上げ感は抑えた。特にクロスターは16インチタイヤの扁平率が60%で、サスペンションも比較的柔軟な設定だから、コンパクトカーでは乗り心地が快適な部類に入る。
ヤリスの乗り心地はフィットよりも硬く、特に幅広いグレードに装着される14インチタイヤ装着車には注意したい。タイヤが低燃費指向で、転がり抵抗を抑えるために、指定空気圧も前輪が250kPa、後輪は240kPaと高い。段差を乗り越えた時など、突き上げ感が気になる。
WLTCモード燃費(2WD)は、フィットのe:HEVが27.2~29.4km/L、ヤリスハイブリッドは35.4~36km/Lになる。後者の数値は日本で販売される乗用車では最上級だ。ノーマルエンジンの燃費も、ヤリスの1.5Lは優れている(1Lは設計が古く燃費は1.5Lほど良くない)。燃費はフィットよりもヤリスが優秀だ。
安全装備もヤリスが充実する。後方の並走車両を検知して知らせる機能など、ヤリスはオプションで装着できるが、フィットには設定がない。価格は互角の設定だ。
以上のように商品力を比べると、視界と取りまわし性、後席の居住性、荷室の広さと使い勝手、走行安定性、乗り心地、ハイブリッドの動力性能では、フィットが勝っている。
逆にヤリスが優れているのは、走りの軽快感、峠道などにおけるスポーティドライブの楽しさ、燃費性能、安全装備の充実度だ。それでもフィットの優れた面が多い。
■優良車であるフィットがなぜ販売面で負けるのか
フィットは優れた商品なのに、なぜ販売面ではヤリスに負けるのか。まず挙げられるのはグレード構成の違いだ。前述の通りヤリスには1Lエンジン搭載車もある。1.0X・Bパッケージは、衝突被害軽減ブレーキを取り去ったから推奨できないが、価格自体は139万5000円と安い。
フィットで最も安価な1.3ベーシックは155万7600円だから、安さを重視する法人ユーザーなどはヤリスを選びやすい。販売店によると「買い物など近隣の移動だけに使う場合、一般のお客様も、価格が安いことから1Lエンジンで装備を充実させた1.0Gを選ぶことがある」という。
ヤリスでは2種類のノーマルエンジンを選べるため、販売比率も60%と高い。ハイブリッドは40%だ。逆にフィットでは、e:HEVが60%以上を占める。
これを2021年1~6月の1か月平均登録台数に当てはめると、ハイブリッドの台数はヤリスが約3700台で、フィットは約3000台だ。フィットハイブリッドの台数はヤリスに近いが、ノーマルエンジンで差を付けられた。
販売店舗数の違いも大きい。今のトヨタ車は全店で売るから、ヤリスの販売網も約4600店舗に達する。フィットも全店で扱うが、ホンダは約2150店舗だ。販売店舗数に2倍以上の差があると、売れ行きにも多大な影響を与える。
同じメーカー内の競争も見逃せない。トヨタにはコンパクトカーのルーミーもあり、この登録台数は、2021年1~6月の1か月平均が約1万3000台だ。ヤリスの約9300台を大幅に上まわる。それでも商品特性の違いにより、売り分けを可能にした。
その点でホンダのフィットは、ユーザーを少なからずN-BOXに奪われている。N-BOXの2021年1~6月における1か月平均届け出台数は2万2000台と超絶的に多く、フィットやフリードの顧客を奪っているからだ。
N-BOXの売れ行きは、2021年1~6月に国内で新車として売られたホンダ車全体の35%を占める。N-BOXの供給が何らかのトラブルで停止すると、ホンダの国内販売は35%を失って大きな打撃を受けてしまう。
そこで決算期に実施される低金利キャンペーンやディーラーオプションのサービスなど、N-BOXではすべての恩典を対象外にしているが、それでも絶好調の販売に歯止めが掛からない。ホンダの商品企画担当者は「N-BOXはモンスターだ」と述べる。N-BOXの売れ行きは、もはやメーカーにも止められないからだ。
このほかフィットの売れ行きについて販売店に尋ねると、以下のように返答した。「フィットでは、半導体不足の影響がほかの車種以上に深刻だ。ETC車載器などのディーラーオプションが滞り、納車できないこともある。最近は収まりつつあるが、今でも遅延は残り、納期の長い仕様は3か月近くに達する」。
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