■大切な忘れ物はないですか?
いままでのレポートでは変化するホンダの事情を説明したように受け取られるが、ここからがホンダに対して物を申したい部分となる。
今から20年くらい前のこと。トヨタはサイオン(SCION)というブランドをアメリカで立ち上げたことがあったが(2003~2016年)、その最大の理由はカリフォルニアの若者からそっぽを向かれていたことだった。
若い人が集まる大学のキャンパスにはホンダ車が多く、トヨタ車はほとんどいないことにトヨタは危機感を覚えたという。このころ、グローバル化によって新興国でもクルマが売れるようになったが、クルマ好きは退屈なトヨタ車を選ばなかった。
その一方で、ホンダは、シティ、シビック/インテグラのタイプR、ホンダS2000など、ボーイズレーサーの名を轟かせ、若い人から支持されていた。
あれから20年の年月が経った。トヨタは豊田章男社長のクルマ愛がこうじて、楽しいクルマがどんどんトヨタから送りだされている。
自前で設計生産できないモデルはスバルやBMWとコラボしてまで、クルマ好きの豊田章男社長が乗りたいと思うクルマを製品化している。GRというホットなブランドはヤリスからランクルまで品揃えし、KINTOではGRヤリス・モリゾウセレクションも用意する。
しかし、最近のホンダはどうだろうか。サーキットを3つも保有し(鈴鹿・茂木・熊本)、F1でも強さを誇るものの、そのイメージとは裏腹に、2005年頃からスポーツカーの撤退が続いているし、最近はコンパクトカーのホットハッチも存在しない。
若い人が手に入れることができる安価なホットハッチがないのは、これからのホンダの事業では致命的になるのではないだろうかと危惧する。
環境・安全への技術革新と事業の抜本的な見直しは不可欠である。素晴らしいEVが作れても、その時にユーザー不在であってはホンダの復活はあり得ない。ホンダがもっとも大切にするべきことは、みんなが買えて、楽しめるクルマなのだ。
新型フィットが発表されたとき、八郷社長と面談した。タイプRほど過激でなくてもいいから、フィットに小気味よく回るエンジンを搭載したRSが欲しいと強くお願いした。たまたま大学の後輩なので、先輩の言うことを聞いてくれると思っていたが、そのまま去ってしまった。三部さんとも長いお付き合いなので、スズキスイフトスポーツのように200万円以下で買えるホットハッチが欲しいとお伝えしておきたい。
ということで、この場を借りて、ホンダの三部社長には「そのことを忘れないでほしい」と申し上げたいのである。
清水和夫(Kazuo Shimizu)
自動車ジャーナリスト
神奈川工科大学 特別客員教授
内閣府SIP自動走行 構成委員
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