メルセデス・ベンツ 2030年までに全車完全電動化宣言! あと9年で可能?

■充電インフラの整備と「メルセデスミーチャージ」

 ラグジュアリーなEVのオーナーには、ファン・トゥ・ドライブだけでなく、充電時にもラグジュアリーな体験を提供する、というのも新たなメルセデス・ベンツの考え方だ。

 すでに世界中に53万を超える「メルセデスミーチャージ」の充電ステーションでは、認証手続きも支払いも不要、プラグを差し込み充電しプラグを外すだけ、それ以外は何もいらない、という「プラグ&チャージ」が可能となる。

 北米ではEQSの発売に合わせてEV充電ネットワークのChargePointと協働し全米で約6万の公共充電ポイントを確保。

 それに加えショッピングモールやホテル、オフィスなどの約6万の準公共充電ポイント、合計約12万拠点の全米最大の充電ネットワークを確立。そのすべてが「メルセデスミーチャージ」というブランドの下で運営され、テスラを追撃する。

メルセデス・ベンツのフラッグシップEVであるEQSの充電風景
ベンツのフラッグシップEVであるEQSの充電風景。専用充電ステーション「メルセデスミーチャージ」で使用される電力が、再生可能エネルギーから発電されたものであることを「保証」すると発表

 またメルセデスミーチャージで充電に使われる電気が再生可能エネルギーから発電された「グリーンな電気」であることをメルセデス・ベンツが保証するとも発表。環境意識の高い富裕層の囲い込みを目指している。

 EVが急激に普及し始めている欧州では、メルセデス・ベンツの親会社であるダイムラーがVW、BMW、フォードなどと共同で設立したアイオニティという急速充電ネットワークがあるが、さらにいくつかのプレミアム充電サイトを運営するとのこと。

 またシェルと協力して、2025年までに欧州、中国、北米における3万を超えるシェルの充電ネットワークへのメルセデス・ベンツ顧客のアクセスを拡大させる。それにはグローバルに1万を超えるハイパワー充電拠点が含まれる。ガソリンの売上が減少するシェルにとっても渡りに船だろう。

■ただし光があるところには影もある。伝統ある内燃機関の開発費は8割減

 BEVの生産コストの大きな割合を占めるバッテリー。技術革新と量産効果により性能が向上し価格が下落することが予測されてはいるものの、完全電動化の影の部分の一つはコストの上昇だ。

 それを相殺するためにバッテリーシステムのモジュラー化、すなわち共通規格の標準化した部品を組み合わせて複数の車種に対応させる方法で量産効果がより生まれるような工夫がなされる。

 ディーラーを通じないクルマの直販化や商品ポートフォリオをより高価格帯に移動させることでの売り上げ1台あたりからの収益を増加させる施策も取られる。デジタルサービスを通じたクルマ販売後も継続的に収益が上がるビジネスモデルも構築が進んでいる。

 だがそれだけではない。コスト削減のために、BEV以外の投資は徹底的に削減される。具体的には、ICEとPHEVへの設備・研究開発投資費用を2019年対比で2026年までに8割(!)削減するとのこと。

 また投資全体としても2019年の実績値に対して2025年までに20%削減するという。2021年にはやや増えるもののそれ以降は投資が減少し、電動アーキテクチャーにフォーカスすることで2025年を超えても投資を削減する方向。

今後の資本的支出と研究開発費の推移のイメージ図、ICEとPHEVへの投資は大幅削減される。選択と集中により、最終的には投資全体を下げていこうという極めて合理的な考え方に見える
今後の資本的支出と研究開発費の推移のイメージ図、ICEとPHEVへの投資は大幅削減される。選択と集中により、最終的には投資全体を下げていこうという極めて合理的な考え方に見える

 100年に一度の変革期においても、設備開発投資を削減し、同時にブランド競争力と二桁の利益成長を可能にする収益力を保つ、というのはブレーキを踏みながら全開加速するような曲芸だ。

 またICEからの撤退に伴い、ドイツにある最も伝統のある2つのエンジン工場は再編され、また再教育は行われるものの、固定費削減の一環として一部の人員の削減も行われる。

 「メルセデスでは数世代にわたって熟練工が妥協を許さず改善を行ってきた熱意により、独自の生産の専門知識がもたらされてきたことに誇りを持つ」といわれてきた。AMGのクルマにはエンジンを組み上げた熟練工の名前が刻まれている。彼らの居場所は今後残されているのだろうか。

 そもそもICEはエンジン部品だけで1000を超えるといわれているが、テスラのパワートレイン部品は17程度といわれている。その上に車体の鋳造技術が向上したり、モジュール化が進めば人はさらにいらなくなるだろう。これは日本においても他人事ではないかもしれない。

ドイツラスタット工場でのメルセデス・ベンツとして初めてのコンパクトBEVSUVであるEQAの製造工程
ドイツラスタット工場でのメルセデス・ベンツとして初めてのコンパクトBEV SUVであるEQAの製造工程。今後モジュール化が進めばもっと生産ラインも簡素化されるのかもしれない

 次期排出規制Euro7の2025年以降の導入とゼロエミッションの流れの加速により、欧州の自動車メーカーの電動化への動きは激しさを増すばかりだ。

 これらをテコにEUの国際競争力を確保しようとの狙いも透けてみえる。環境対策を言い訳に、ゲームのルールが一方的に欧州で決められることに対して、筆者は個人的に違和感を覚える部分もある。

 本当に電動化への移行のティッピングポイントは近づいているのか、高級車セグメントだけでなくほかのセグメントでも起きるのか、海外とは対照的に直近EV充電スポットが減少してしまったといわれる日本と日本の自動車産業はガラパゴス化してしまうのか、引き続き見守っていきたい。

【画像ギャラリー】ベンツは2030年に全車EV!! EQSにその片鱗は見えるのか?

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