■EV専用アーキテクチャーと今後のモデル展開
今回のストラテジー・アップデートで、2025年までに新車販売におけるEVの割合を50%に引き上げるとの新たな目標を掲げたが、あくまでもPHEVは充電インフラが確立されるまでの数年間の過渡的な技術で本命はBEVであるとする。
完全電動化を進めるにあたって重要なのが、クルマの基礎部分となるアーキテクチャー(プラットフォーム)。
今年4月に発表済みのSクラスの兄弟車であるEQS向けのEV専用アーキテクチャーであるEVAに加え、2024年に小・中型車向けに「EVファースト」指向で造られたアーキテクチャーMMAを導入、2025年には3つの「EV専用」のアーキテクチャー(乗用車向けMB.EA、バン・商用車向けVAN.EA、AMG車向けAMG.EA)が導入され、以降、ICE向けアーキテクチャーは造られない。
今年発表済みのEQA、EQB、EQSに続き、2022年までにEQE、EQSとEQEのSUVバージョンの3車種が追加される。
また、メルセデス-AMG F1チームのスペシャリストの力も借りた新モデル、1000キロを超える走行可能距離と100kmあたり10kWhを下回る低電費、世界最低レベルのCd値を誇り、最先端のボディ鋳造技術と先進的材料で造られるVISION EQXXも2022年初頭にワールドプレミア予定。この情報からもテスラをかなり強く意識していることがわかる。

2023年にはEQS SUVから派生するマイバッハのBEV SUV、2024年には完全電動化したGクラス(!)も発表される。AMGも全車電動化される。
MB.OSはMB.EAと同じ哲学で造られるソフトウェアアーキテクチャーで、超効率性、最大のシンプルさ、追随を許さない柔軟性が特徴。より速い技術革新を可能にする、将来のクルマのデジタルバックボーンとなる。この開発のために新たに3000人のソフトウェア技術者が採用される。
■完全電動化を達成の為、バッテリー・モーターの新技術を積極的に実用化する
完全電動化にあたっては、当然ながら自社が生産するすべてのBEVに搭載するバッテリーが必要となる。また歴史ある内燃機関のエンジン開発には各社がしのぎを削ってきたのと同様に、まだ歴史の浅い車載用モーターの開発でも革新的な技術開発が続いている。メルセデス・ベンツのこれらの分野での戦略はどのようなものだろうか。
100%BEV生産にあたり、必要不可欠なバッテリー製造能力増強と現地生産促進のため、8つのギガファクトリー(うち欧州4、米国1)を設立しバッテリーを内製化することが今回発表された。
年間生産能力200Gwh(2億キロワット時、日本の標準世帯46300戸の年間電力使用量相当、EV200万台程度)を達成する予定。これにより供給確保とガソリン・ディーゼルエンジンの製造拠点の業態転換も果たす。
またバッテリーはコスト削減・開発スピード向上のため車種を問わない統一規格で設計され、同一のインターフェイスを持つモジュール式システムを採用、90%のバッテリープラットフォームが標準化される。モデル間の走行可能距離や充電時間、バッテリー寿命の違いは、搭載されるバッテリーの化学性能と大きさの違いで生み出される。
EQSではNMC811リチウムイオンバッテリーが搭載されたが、2020年代半ばにはハイシリコンアノードバッテリー、2028年には固体バッテリーへと進化を続けることによりエネルギー密度の向上を図り、より短い充電時間でより長い距離を走行すること、充電可能回数を増やすことを可能にする計画。
BEVの要の一つであるバッテリー管理システムは、AIに基づいたアルゴリズムにより、それぞれのドライバーの運転特性に合わせてバッテリーシステム全体を順応させるという画期的なもの。
50を超えるインテリジェントな機能により、充電状態、劣化状態、電圧、電流、それぞれのセルの温度などをコントロールすることで最長の走行可能距離とバッテリー長寿命化を達成する。
また同じく最重要部品の一つであるモーターは、自社開発・製造の放射状永久磁石モーターであるeATS2.0を多くの製品で搭載。シリコンカーバイドインバーターとともに800Vのパワートレインの一部分として卓越したパフォーマンスを持つ。
これに加え、AMG向けには軸方向磁束(Axial Flux)モーターという画期的新技術を採用。これまでのモーターは放射状に設計され重くて長い円筒形をしているが、軽量で小型、高性能かつ高効率で電費の良い、劣化しないパフォーマンスを持つ次世代モーター。
イギリスの新興企業YASAがすでに実用化しており、フェラーリSF90ストラダーレや296GTBに採用済み。今回メルセデス・ベンツがYASAを自らの次世代モーター開発パートナーとして100%子会社化した。
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