■重量配分を50対50にこだわる深いわけ
3つ目は2つ目と深くかかわっているのですが、BMWが50対50にこだわっているということです。これはちょっと専門的な話になってしまうのですがちょっとお付き合いください。
クルマのアンダーステア、オーバーステアを示す考え方として、ニュートラルステアポイント(NSP)というのがあります。うんとざっくり説明すると、旋回中の前輪のグリップの総和と後輪のグリップの総和が釣り合うポイントをニュートラルステアポイントといいます。
実際にはコーナリング中のクルマには微細なスリップアングル(横滑り角)が発生していて、これによって発生するグリップ力に差が出るので、クルマのサスペンションセッティングによっても違いが生じてしまうのですが、どんぶり勘定でいうと前後のタイヤサイズが同じなら、ニュートラルステアポイントはホイールベースのほぼ中心にあると考えられます。この時、駆動力は考慮しません。
ニュートラルステアポイントが重心よりも前にあるか後ろにあるかでアンダーステア、オーバーステアが決まるという考え方です。
例えばフロントヘビーなクルマで、ニュートラルステアポイント(以下NSP)よりも重心が前にあればアンダーステアになります。前輪への重量負担が大きくなるので先にタイヤの限界を迎えるからです。
ミッドシップやリアエンジンの場合はNSPより重心が後ろにあればオーバーステアになります。
BMWは前後重量配分が50対50なので、NSPと重心がほぼ一致するのでニュートラルステアになります。もちろんこれは素性の話であって、実際にはサスペンションのセッティングなどで弱アンダーステアにセットするのですが、素性がニュートラスステアのクルマは、セッティングの自由度がとても広くなります。
ちょっとアンダーステア、ちょっとオーバーステア(そんなクルマはメ-カーでは作りませんが)といった具合にセッティングの自由度がとても広いわけです。
もちろんポルシェ911のように後輪駆動でリアタイヤを太くすれば、(NSPは前輪と後輪のグリップの総和のバランス点になるので)NSPをホイールベースの中央より後ろにすることができ、重心点と合わせることも不可能ではありません。
しかし、荷重変化による前輪のグリップの変化量が大きくなるので、操縦性の変化も大きく神経質になりやすいのです。
その意味でも素性としての特性を整えるためにBMWが50対50にこだわっているというわけなのです。
■近年のハイパワー車は電子制御4WDでダイナミックにコントロールできる
もうひとつ付け加えるならフロントヘビーなFRに比べ50対50のFRにすると、加速時の後輪への重心移動が容易になるので、よりハイパワーなエンジンを搭載した時に操縦性のバランス(弱アンダーステア)を保ちながら後輪のタイヤサイズを太くすることで対処しやすくなります。
フロントヘビーなFRでも後輪を太くして安定性を高めることはできますが、荷重を後ろに移動させるのに時間に遅れが生じるので、操縦性の面では不利になります。
近年では、ハイパワーFR車には電子制御カップリングを使った4WD化が盛んにおこなわれるようになっています。BMWも例外ではありませんが、前後重量バランスの整った4WDが、素性として操縦性のチューニング幅が広いのは言うまでもありません。
圧倒的なトラクション性能を備え、かつ操縦性のいいオンロード向け4WDが可能なわけです。M5はその典型的な1台でしょう。
というわけで、電子制御が未熟な時代、BMWは理想的な操縦性を作り出すのに適したシャシーを作るために50対50の重量配分を持ったFRにこだわってきたということなのだと思います。このクルマづくりの姿勢は今後も変わることなくBMWのDNAとして受け継がれていくのだろうと思います。
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