■ポルシェ944ターボをターゲットに開発されたスカイラインGTS
長年に渡ってスカイラインの開発に携わってきた櫻井眞一郎さんは、ずっと2Lの排気量と直列6気筒エンジンにこだわり続けてきた。R31とR32の開発主管を託された伊藤修令さんも、多くのファンを持つベース車のポテンシャルを高めることに力を入れている。
それまでの流れをいったんゼロに戻し、原点回帰を図った。そして新たな評価基準を作ったのである。
エンジンは1800GXiが積む1.8LのCA18i型直列4気筒SOHCをボトムに設定する。だが、主役であり、多くの人がスカイラインらしいと感じるのは、大ヒットした2000GTの血を引く2000GTSシリーズだ。
心臓には改良を加えたRB20DE型直列6気筒DOHC4バルブとRB20DET型直列6気筒DOHCハイフローセラミック/ボールベアリングターボが選ばれた。トランスミッションは2種類だ。2速ギアと3速ギアをダブルコーンシンクロとした5速MTと電子制御4速のE-ATを用意している。
GTSシリーズが性能目標の仮想ライバルとしたのは、メルセデスベンツ190Eの2.3-16とBMWのM3、そしてポルシェ944ターボだった。繰り返して言うが、GT-Rの仮想ライバルではない。
当時、ロードゴーイングカーとして世界の頂点に君臨し、サーキットでも大暴れしていたスポーツカーをGTSのライバルに据えたのである。いかに設計陣の志が高かったかわかるだろう。だから今でも熱狂的なファンに愛されている。
■スカイライン神話のはじまりは3代目 GC10型2000GTから
1967年7月、「愛のスカイライン」のキャッチフレーズで登場し、いつしか「ハコスカ」と呼ばれて親しまれたのが3代目のC10スカイラインだ。2代目のときに2000GTは誕生したが、これはひと握りのマニアとレース好きの走り屋だけのスポーツセダンだった。
直列6気筒エンジンを積む2000GTが認知され、多くの人に知られるようになるのは、このスカイラインからである。9月にL20型直列6気筒SOHCエンジンを積み、4輪独立懸架のサスペンションを採用した型式GC10の2000GTが登場した。これがのちのGTSのルーツといえるだろう。
GC10スカイラインは初めて2ドアハードトップを設定したし、高性能なDOHC4バルブのS20型直列6気筒エンジンを積む2000GT-Rも送り出している。GC10は新たなスカイライン神話と伝説を築いたのだ。
これ以降、代を重ねるごとに2000GTの存在感は薄くなっている。販売はそれなりに好調だったが、これはハコスカの神通力に支えられてのものだった。昭和の時代を代表する傑作と言えばGC10スカイラインで、これを凌ぐオーラを放つスカイラインはない。
■GT-Rを復活すべく誕生したR32型は平成の「スカG」
平成の傑作、それはR32スカイラインだ。再びスカイラインをメジャーブランドに引き上げ、日本専用モデルなのに世界に名を轟かせている。原点回帰と言っているが、その原点はGC10スカイライン2000GTなのだ。だからGT-Rも復活させた。
ボディは先代のR31スカイラインよりダウンサイジングし、スポーティ感覚が強い。小型車枠いっぱいの全幅にとどめながら、痛快な走りを実現している。眼を三角にしての攻めの走りだけでなく、流して走っても楽しい。
R32スカイラインが今も愛されているのは、今も新鮮味を失わないキュートなルックスと気持ちいい走りにある。ベース車でも走りの質は驚くほど高いレベルにあった。
だからGT-Rが登場しなくても魅力的だったと思う。その秘密のひとつは、全グレードに採用した革新的なサスペンションだ。サスペンションの専門家である伊藤修令さんは、スカイライン伝統のサスペンションと決別し、前輪だけでなく後輪にもマルチリンクを採用した。
これはアッパーマウントを持つダブルウイッシュボーンと似た形式だが、リンクを追加するなど、随所に工夫を凝らしている。4輪すべてをマルチリンクにするのはスカイラインが初めての試みだ。
これに2段絞りバルブ付きのショックアブソーバーを組み合わせ、優れた接地フィールと卓越した旋回コントロール性を実現した。しかも後輪駆動だから、意のままに操る楽しさに満ちている。
また、主力グレードのリアサスペンションには位相反転制御のスーパーHICASとスタビライザーを採用した。新設計のツインオリフィス式電子制御パワーステアリングとリアビスカスカップリング式LSDと相まってシャープで気持ちいいハンドリングを実現している。
GXi以外のグレードは4輪ディスクブレーキだし、GTS-tタイプMはフロントが4ポットの4輪ベンチレーテッドディスクだから止まる性能も超一級だ。まだABSはオプション扱いとなっていたが、コントロールできる領域は驚くほど広い。
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