■君子豹変! V6時代をリードしたベンツが直6を投入
そんな“V6優位論”の家元だったベンツが、あっさり掌を返して直6を投入してきたのは驚いた。
2017年にベンツが新しい直6(ガソリン版がM256、ディーゼル版がOM656)を投入した時、20年前に主張していたことが180度ひっくり返っていたからだ。
かつて、衝突時に不利とされていた直6の長さは、ボディ設計の技術が進化したことで課題を克服。逆に、近年重視されるようになってきた、オフセット衝突やスモールオフセット衝突では、エンジンの「幅の狭さ」が衝突エネルギー吸収の面でメリットになっているという!
また、強化される一方の排ガス規制への対応でも、かさばる排ガス処理システムをエンジンの右か左どちらか一方にまとめられるという点で、V6より直6の方が合理的。とくに、DPFや尿素SCRなど排ガス処理システムの複雑なディーゼルでは、もはやV6では成立し難いとすら言われている。
このベンツの方針転換には、さっそくジャガー・ランドローバーが追随して“INGENIUM”3L直6を投入してきたし、ご存知のとおりマツダも2020年の中期経営方針で開発中の3L直6エンジンを公開している。20年前と同様、ベンツ主導のエンジン戦略は狙いどおりの成功を収めつつあるといっていい。
■一貫して直6を採用し続けるBMW
しかし、今回2度目となるベンツの変わり身の早さについては、「技術的必然性はあるにしても、マーケティング面での要請も大きかったのでは?」と、正直ツッコミたくなるんだよねぇ。
大きいのはBMWストレート6の存在だ。世の中がV6一色に染まった時代にも、BMWはお家芸の直6にこだわり、なんら不都合なくクルマを造り続けてきた。
というか、むしろ少数派となったことでBMW直6の魅力を見直す人が増えたくらいで、ベンツが主張するほどには「V6でないと生き残れない」という状況にはならなかったわけだ。
で、ブレることなく孤塁を守っていたBMWが何も変わっていないのに、時計の針だけがぐるりと回って「再び直6の時代が来ました」という。
ミもフタもない話だが、衝突や排ガス処理だけを考えるなら、基本的にすべて直4で対応可能。わざわざ直6を復活させる必然性はない。メーカーの本音としては、直6にはエンジンのエモーショナルな魅力、いわゆる官能性能面のマーケティング効果を期待しているように思えるんだよな、ぼくは。
プレミアムカーのユーザーを満足させるには、機能性や合理性だけでは不十分。エンジンフィールで「やっぱりストレートシックスっていいよねぇ!」という部分を訴求したいからこそ、いま敢えて直6を復活させるメーカーが増えているのではないでしょうか?
■V6は淘汰されていくのか?
だから、逆にV6がオワコンという考え方も短絡的だと思う。
つい先日、トヨタが新型ランドクルーザー用に3.3L V6ディーゼルターボを新開発してきたが、これがそのいい例だ。
90度V6の広いバンク間にツインターボを収めた、いわゆる“ホットインサイド”のレイアウトは、慎重なトヨタとしてはかなり踏み込んだアグレッシブな設計。309ps/700Nmのパフォーマンスは、従来までの4.5L V8ターボディーゼルを馬力で16.6%トルクで7.7%上回る。
この3.3L V6ディーゼルターボはランクルのみならず北米ではタンドラなどにも搭載され、大型SUV用の主力エンジンと目されている。
つまり、V6についても載せるクルマや仕向地マーケットの事情次第で、今後もさまざまな展開があり得る、ということ。
クルマ好きとしては、「これからはホニャララ……」と煽られるとつい浮き足立ってしまうが、直6もV6も適材適所というのが正解なんじゃないでしょうかねぇ。
【画像ギャラリー】片方が上がれば片方が下がる!? 栄枯盛衰を繰り返してきた直6&V6エンジン(10枚)画像ギャラリー
コメント
コメントの使い方