■「自動化」と「電動化」の連係プレー
こう考えていくと、自動運転技術の開発は終わりがないようにも思えます。
しかし、技術の進化と深化により、じつは人とクルマの関係がもっと縮まるとも考えられ、そこに自動運転技術とドライバーによる操る楽しさの両立が目指せるのではないかとの見解が世界中の自動車メーカーのなかで大勢を占めてきました。
ある技術者は「自動運転技術がどんどん進化していき、一般道路や買い物客で賑わう商店街でレベル3が使えるようになったとしても、ドライバーが運転して感じ取るクルマの挙動や、そこから得られる移動の楽しさは残すべき」と言い切ります。
確かにその通りで、手動運転こそ操る楽しさを大いに実感する機会であり、クルマ文化を残すという意味でも重要です。
一方、年々クルマをとりまく環境は厳しくなってきました。とりわけ電動化技術については、地球規模でのエネルギー政策とも絡み合い複雑な議論が交わされています。
かつてトヨタの技術者は「パワートレーンの電動化と運転操作の自動化は必ずしもセットである必要はない」との判断を示してきました。
しかし昨今では、「パワートレーン各所の電動化より、これまで電動化を取り入れてこなかった伝達機構にも適応させることができ、さらにきめ細やかな制御や自動化が期待できる」と見解に変化がみられます。技術進化の速度が想像以上に早まったことも見解変化の要因でしょう。
電動化と自動化の融合は大きなメリットを双方にもたらします。アクセルやブレーキ、そしてステアリング操作、そしてサスペンションのダンパー制御などをバイワイヤ技術によって電気的に結合(電動化)することでシステムによる運転操作が緻密に行えるほか、各操作をひとつのECU(コントロールユニット)で監視や制御が可能となり自動化の効率も高まるからです。
また、人が運転操作をする際にも電動化と自動化の連携プレーが期待できます。
たとえば、ドライバーの運転操作によって入力されたペダルやステアリングの操作を電気信号に変換し、その上で正確に制御を行なうバイワイヤ技術によって運転のほとんどはドライバーが行いながら、危険な状態に近づこうとしている時だけ、そっとシステムが運転操作の修正や補正を行なうといった高度な制御が可能です。
同システムを搭載した某自動車メーカーのプロトタイプに試乗しましたが、システムの介入はほとんどわかりませんでした。ここでの滑らかな修正や補正は電動化が担い、危険や状態であること判断は自動化が担当します。つまり電動化は人でいう手足、自動化は頭脳となって安全な運転をサポートするのです。
■機能の進化に合わせてハンドル形状も変わる
それだけではありません。自動化と電動化の融合によって長らく変化のなかったステアリングの形状にも大胆な変化が見られます。その好例がグリップ型ステアリングの実装です。
グリップ型のステアリングは、すでに北米市場向けの「テスラ」各モデルに採用されていますが、これは既存のステアリング機構を用いたものでロック・トゥー・ロックも丸型ステアリングと変わりません。動画サイトではグリップ型のステアリングをグルグル回す操作に慣れず戸惑っている映像も見受けられます。
対して、一部の自動車メーカーが開発しているグリップ型ステアリングは、ロック・トゥー・ロック1回転、つまり左右に180度ずつ回転させるだけで、両手を放さずにフル転舵が行えます。
新しいグリップ型ステアリングにはステアリング機構に対するバイワイヤ技術とともに、可変ギヤレシオ機構が組み込まれています。日産が国内市場の「スカイライン」に搭載しているバイワイヤ・ステアリング機構「ダイレクトアダプティブステアリング」よりもさらに一歩進んだシステムです。
20㎞/hあたりまでの低速域では少ないステアリング操作量でも大きくタイヤは操舵され、速度の上昇とともに操舵量は小さくなり安定性を確保します。さらに、車速や各方向の加速度から最適なステアリングの操舵速度とパワーアシスト力を演算するフィードフォワード制御も取り入れ、違和感のない操作フィールを実現していました。
これまでみてきたように、自動化レベルは技術の進化と、社会的受容性の高まりとともに変化するわけですが、自動化はこの先、人(ドライバー)の振る舞い領域にまで及びます。
また、電動化とも足並みを揃えつつ、効率の良い制御を行なうこともわかりました。個人的には、人に寄り添うHMIの開発に強く惹かれています。
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