■未曾有の混乱で先行きは不透明
お隣の韓国では、大型トラックやバスなどに搭載するディーゼルエンジン用の尿素の供給について、中国への依存度が高かった結果深刻な尿素水不足となっている(中国が輸出規制をかけてしまった)。またヨーロッパでは自動車用鋼板に必要なマグネシウムが間もなく枯渇するといった報道があった。
日本国内では二宮金次郎の銅像が盗まれたり、希少金属目当てで2代目トヨタプリウスの盗難が多くなっているなど、日本では心配する必要がないものもあるが、世界的にはとにかく多くの原材料などが不足している。
近世では経験したことのない世界的パンデミックに見舞われてしまったので、生活を元に戻す過程で何が起こるかはなかなか見通せないのが現状。
販売現場で今後の見通しを聞いても、何ひとつ明確な答えは返ってこない。現場のセールスマンは「とにかく新車が欲しいという人に確実に販売していくしかない」と語ってくれた。
ただし、日本国内の状況、そして新車に的を絞ると一時よりはほんの少しだが前向きな動きも見られるようになった。
軽自動車では特にスズキとダイハツがサプライチェーンの混乱の影響を受けているようだとの話があった。
しかし、自販連や全軽自協の最新の新車販売統計を見ると(2021年10月単月)、スズキは前年同期比で100%を超えるモデルも出てきている(生産状況の改善というよりは、在庫を絞り出して販売を続けている結果なのかもしれないが)。
■新車を諦めたユーザーが中古車に殺到
今回のサプライチェーンの混乱が大きく影響していないと販売現場では聞く日産も、2021年10月単月の販売統計ベースで見ると、ノート(オーラを含む)は前年同期がモデルチェンジ直前だったこともあり、前年同期比で138.8%となっている。だが、セレナは前年同期比で92.3%、リーフで138.4%となっている。
軽自動車ではルークスが前年同期比123.0%、デイズが110.8%となっている。日産と軽自動車の共同開発をしている三菱のeKシリーズも前年比100%となっているので、販売統計からも供給体制に大きな悪影響が出ていないことがわかり、そこに需要も集まっている(すぐ新車に乗りたい)様子がうかがえる。
“すぐ乗れる新車を探して買うひと”がいる一方で、新車購入はいまの状況に改善傾向が見えるまでは手控え、その代わり高年式中古車を買い求めるひとが殺到している。高年式優良中古車は日系ブランド車だけでなく、輸入車でも“枯渇状況”となっている。
中古車を買いなれている人ならともかく、ずっと新車に乗り続けてきて、今回“つなぎ”として中古車に乗ろうかと考えると、ディーラーで試乗車や代車など社有車として使っていた高年式で程度も良い車両(たいていは認定中古車となる)に注目することになる。
その結果、社有車あがりの高年式認定中古車が奪い合いとなっているのだが、在庫や生産状況に余裕があるわけではないので、ポンポンと社有車登録して半年ほど使い、認定中古車として放出するケースはほとんどなくなっている。
初回車検ぐらいまでの期間で残価設定ローンを組んでいて、完済のタイミングで下取りに出した過走行ではない車両も人気が高く、展示場にはまず並ばないとのことである。本当に上玉(程度の良い中古車)は、展示場に並ばないどころか、ウエブサイトにも掲載する間もなく売れてしまうほど。
なので、とにかくリクエストができるなら希望車種を伝えて取り置きを頼むか、それが無理ならば足しげく中古車展示場に出向き、上玉に巡りあえる日を待つしかないだろう。つまり、中古車もすでに“待つ”ことが必要となっているのである。
■バックオーダー消化へ向けてのターニングポイント
あまり現状のネガティブな事象を紹介しても仕方ないので、前向きな話をしていこう。
残念ながらサプライチェーンの混乱が収束するにはまだまだ時間を要することになる。しかし、そのようななかでも、必要な原材料や部品は“あるところにはある”のである。
そのため、自動車関連部品に限って言えば、世界の自動車メーカーがまさに“宝探し”のようにして部品を探し、平時より高い代金を払って部品をまさに“かき集めて”いるのが現状。
そして、最初のターニングポイントは2021年末である。受注したのに新規登録や納車ができない車両を“受注残車両”と呼ぶが、平時では年末に向け受注残車両を越年させないために、増産をかけて可能な限り年内納車もしくは年内登録に間に合うように完成車工場は対応する。
サプライチェーンの混乱下である2021年末でも例年並みとはいかないだろうが、思いは同じなので、どこまで各メーカーでバックオーダーを消化できるかが見ものとなる。
トヨタが2021年12月の国内生産工場の稼働を正常に戻すと発表したとの報道があり、ホンダも12月上旬の工場稼働率は100%とウエブサイト上に記している。これも2021暦年内にある程度バックオーダーの消化をしておきたいということがあるものと考える。
そして年が明け2022年1月となると、2021事業年度(2021年4月~2022年3月)締めでの、年度末決算セールがスタートする。
販売現場ではいまの状況を見ると、事業年度内に納車が間に合うか間に合わないかは別として、例年のように熱心な販売促進活動を展開してくるはずである。そして完成車メーカーとしては事業年度内に可能な限りのバックオーダーの積極的な消化をしてくるはずである。
もちろん決算を意識してのこともあるが、法人需要を中心に納車が次年度になるといろいろと厄介なことが起こるので、販売現場としては現状でも「年度内にはなんとかして欲しい」という声が目立つ。
あるディーラーのセールスマンは、「メーカーも決算期ですからね、気合を入れて生産してくることを期待しています。3月末までにラインオフすればメーカーは決算に反映できるでしょう。
ただ、我われディーラーは3月末に配車されても、新年度登録となってしまいますので、決算には反映できませんけどね」と語ってくれた。
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