■犯人グループが盗難に要した時間はわずか1分……これでは防ぎようがない
犯人グループはまず、建物壁に設置された普通充電器のプラグを車両右側後部から抜いている様子が確認できる。つまり、車両はアウトランダーPHEVである。次にドアに近づくと、ヘッドライトが点滅してドアが開錠され、車内に入った。変速機をリバースに入れて、後方に止めてある日産ジュークをうまく避けて逃走した。
盗難に要した時間は1分以内だという。そのほか、犯人グループがスマートフォンと思われる機器で撮影した映像では、違法にパワーユニットがオンになった様子と、それに対して歓喜する犯人たちの声が録音されていた。
一部報道では、一連の盗難行為で盗まれたされた車両がすべてアウトランダーPHEVのように表現されているが、ウエストヨークシャー警察本部の発表では、三菱アウトランダーのみの表記だ。
英国で発売されているアウトランダーぺトロール(2Lガソリン車)とPHEVの双方が今回の盗難被害の対象車なのかについては、筆者として本稿執筆時点では最終的な確認ができていない。
■環境意識の高まりに乗じて中古車でも人気のアウトランダーを盗難の標的に?
では、なぜアウトランダーが盗難の標的になったのか。その理由について確かめるのは難しいのだが、端的に言って、人気があるので盗難車を流す闇ルートで転売しやすいのだと思う。
特にアウトランダーPHEVは、英国を含めて欧州各国の政府が進めるカーボンニュートラルを目指す電動化戦略のなかで、中古車市場での価値も安定している。
そもそも、アウトランダーPHEVは2010年代前半に登場した後、欧州市場では一時、「カンパニーカー」として大人気となった。カンパニーカーとは、企業の幹部が会社から通勤が普段使いのために長期間貸与される制度で、就業契約のなかに組み込まれる項目である。
筆者は、2010年代半ばに当時の三菱自動車の欧州支社関係者と欧州内で会食した際、アウトランダーPHEV人気の理由について「国や地方自治体による各種補助金制度なども併用すると、企業としての車両維持費をかなり抑えることができるからだ」と説明していた。
また、時計の針を少し戻すと、アウトランダーPHEVのセキュリティシステムについては、過去に社外から指摘があった。英国のセキュリティコンサルティング企業の「ペン・テスト・パートナーズ」が2016年6月、スマートフォンのアプリをWi-Fiで利用する場合、盗難の警報を解除する機能などをハッキングできることを、英国BBC放送を通じて紹介している。
この件と今回の盗難事案が具体的にどのように関係しているかについては、ウエストヨークシャー警察本部は公開した資料のなかでは触れていない。
■盗難の手口もハイテク化! 対抗する術はないのか?
では、ハッキング撲滅は可能なのか? 日本でも近年、高級車を対象として「CANインベーダー」という、ECU(車載コンピュータ)同士をつなぐ通信プロトコルを経由して車載システムに侵入するケースが目立つようになっている。そのほかに、スマートキーの微弱電波を増幅させる「リレーアタック」と呼ばれる手法がある。
一般的に公開されている盗難手口から今回の事案を考察すると、3人組という点や、CANインベーダー使用時に行われるとされているフロントバンパー付近での作業する様子が見当たらないこと、また盗難場所が低層の集合住宅に見えることなどから、断定はできないがリレーアタックによる犯行の可能性が高いのではないだろうか。
こうしたクルマのサイバーセキュリティへの対応については近年、世界的に「オートモーティブ・ISAC(インフォメーション・シェアリング・アンド・アナリシス・センター)」と呼ばれる業界団体の活動が強化されている。
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