水素エンジンは、ポテンシャルは高いが、まだまだ課題も多い
水素エンジンの歴史は古く、日本では、武蔵工大(現、東京都市大)の教授らが1970年代に研究を進め、試作車を製作。2000年頃には、欧州でBMW、日本ではマツダが水素エンジンの開発に注力し、水素エンジン車を発表しました。しかし、BMWは2009年に開発を中止、マツダも水素ロータリーエンジンの開発を凍結しています。
その理由は、水素エンジンには、多くの課題があること。なかでも、実用化の障壁となっている課題が、次の3つです。
・燃焼速度が、ガソリンの約7.6倍と圧倒的に速く、プレイグ(熱面着火)や異常燃焼の発生リスクが大
・単位容積あたりの発熱量がガソリンの約1/3.7なので、満タン時の航続距離がガソリン車より圧倒的に不利
・水素インフラの整備が不十分
2021年11月に「スーパー耐久シリーズ」に参戦したカローラスポーツの改造水素エンジン車は、プレイグを回避するために出力を抑えています。さらに、頻繁に水素充填を繰り返したことから、レース結果は優勝車の約半分の距離しか走行できず、半分以上をピット作業に費やしました。
参戦の目的は、勝つことではなく、あくまでポテンシャルを見極めることですが、水素エンジンの実用化には、まだ時間が必要であることを示唆しています。
バッテリーEVはLCA-CO2が多く、カーボンニュートラルを実現できない
カーボンニュートラルを実現するために、今後バッテリーEVが中心となることは確かですが、すべてのクルマがバッテリーEVになればいいという、簡単な話でもありません。バッテリーEVは走行中の排出CO2は確かにゼロですが、LCAで考えると、多くのCO2を発生させています。
また、EVのLCA-CO2排出量は、発電の際に何を燃料とするかに、大きく左右されるという問題もあります。たとえば、燃焼時のCO2排出量が多い石炭や石油を燃焼させる火力発電では増え、原発や再生エネルギーを使えば低減します。
日本の電力構成は、LNGガス、石油、石炭による火力発電が約77%、原発・再エネが23%です。ちなみに原発推進国のフランスは、火力発電が11%、原発・再エネが89%であり、同じバッテリーEVを作っても、バッテリーEV投入によるCO2低減効果は、フランスが大きく、日本は小さいことになります。
CO2排出量の多い石炭火力に頼っている中国は、バッテリーEV投入が必ずしも有効と言えませんが、その中国がバッテリーEV先進国であることは、チョットした矛盾ですね。
実用化には、技術的課題の克服とインフラ整備が必須
水素エンジンの当面の技術的課題は、プレイグの回避ですが、現状では有効な手立てがないため、出力を下げて対応するしかありません。燃焼が速いため燃焼温度が上がるのは必然なので、従来のガソリンのような燃焼でなく、燃焼速度を緩慢にする水素エンジンのため新しい燃焼方式の開発が急務です。
水素インフラについては、日本政府が今のところ積極的でないのが実情。2030年に1,000箇所の水素ステーションを設立する、という目標は、バッテリーEV用の急速充電器の3万台に比べて、心もとないのは否定できません。今後のインフラ整備は、今回旗揚げしたトヨタらの活動が、どれだけ政府をやる気にさせるかにかかっているといっても過言ではありません。
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