もはや立ち入る隙はない? EV含め全方位開発に邁進するトヨタが牙を剥いた相手は誰か!?

■より現実的に未来を見据えるトヨタの思惑

 これまで豊田章男社長は「商品を選ぶのはユーザー」と繰り返してきた。が、コロナ禍、そして気候変動防止の枠組みのなかでは「商品を選ぶのは政府」と言ってもいい状況が生まれつつあるのである。

 その世界トレンドの軍門に早々と降ったのが2040年電動化100%を掲げたホンダだった。それに対してトヨタは2030年の新車販売の約4割にとどまっている。つまり6割はハイブリッドカーを含む従来型車が占めるというわけだ。

 この違いはトヨタがCO2削減は空想的な理想主義では達成できないという考えを捨てていないことによるものだろう。

 「すべてをBEV化するなど無謀だと思うが、それしかダメと言うのなら我々はやりますよ。しかし、エネルギー事情、道路事情、経済事情など、国にはそれぞれ立場がある。それを無視してBEV化を世界で推進して大丈夫なんですか?」という問いかけのようなものだ。

■トヨタは内燃機関を捨ててはいない

 トヨタが大々的なBEV導入のプランを発表する一方で内燃機関を捨てる表明をしなかったことは、とりわけEU(ヨーロッパ連合)にとっては脅威だろう。

 よく、「ヨーロッパはディーゼル排出ガス不正の失地回復のためにBEVに舵を切った」という俗説を耳にするが、EUの電動化プロジェクトはそんな浅いものではない。

 筆者はディーゼル不正が起こる前年の2014年、イタリアのヴェネツィアで行われたカーボンニュートラルに関するシンポジウムを取材した。

 そこで自動車業界を代表してやってきたアウディの環境担当役員、ウーヴェ・コーザー氏は電動化、再生可能エネルギー開発、さらにはカーボンニュートラルな合成燃料eフューエルなど、多様な取り組みを示しながら、カーボンニュートラルが近い将来、企業への投資判断の材料として取り入れられるようになった時の準備の進捗を得々と語っていた。

 ディーゼル不正で慌てて電動化をやったというだけなら、EUはいつでも元の路線に戻れる。が、10年以上の年月をかけて再生可能エネルギーに膨大な投資を行い、経済システムにも低炭素を組み込むなど、自ら背水の陣を敷いた今では後戻りはできない。世界が自分たちになびいてくれなければ困るのだ。

■カーボンニュートラルにハンデを背負う日本

世界中でカーボンニュートラルを推進するというのなら、再生可能エネルギーを増やすのが難しい日本のCO2削減分をEUが引き受けるという気概をみせてくれてもいいはずだ(Soonthorn@AdobeStock)
世界中でカーボンニュートラルを推進するというのなら、再生可能エネルギーを増やすのが難しい日本のCO2削減分をEUが引き受けるという気概をみせてくれてもいいはずだ(Soonthorn@AdobeStock)

 そもそもEUのカーボンニュートラルの理念は再生可能エネルギーが安定して得られ、地震が少なく核エネルギー利用の安全性も担保しやすい自らの地の利しか考えていない、見方によっては身勝手きわまりないものでもある。

 台風や豪雪で再生可能エネルギーを増やすのが難しく、地震が多発することで核エネルギーを増やすにも限界がある日本など、最初から膨大なハンディを負わされているようなものだ。

 世界で協調して気候変動に立ち向かうというのが本当ならば、非石油・ガスエネルギー利用で有利な立場にあるEUが日本が本来負うべきCO2削減分の一部を自分たちで引き受けるというくらいでなければならないはずだ。

 トヨタのBEV、既存技術の両取り策は、そんな世界のトレンドに対する強烈なカウンターパンチと言えるが、これで技術革新的には非常に面白くなった。EU、それと協調路線を取る中国がそれに対抗するには、BEVを本当に現在のクルマの代替技術に育てるしか手がなくなったようなものだからだ。

 今までトヨタは電動化に関する膨大な知見や開発リソースを持ちながら、日本のBEVの発展にほとんど寄与することがなかった。BEV、エンジン車の両取り策で日本の自動車産業のポジション回復に貢献できるかどうか、これからの展開が大いに見ものである。

【画像ギャラリー】師走の衝撃!! EUよ、これがトヨタの本気だ!! トヨタが公開した多彩なプロトタイプBEV(15枚)画像ギャラリー

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