もはや立ち入る隙はない? EV含め全方位開発に邁進するトヨタが牙を剥いた相手は誰か!?

■BEVでの一斉転換に対する危機感

 ハイブリッドカー可愛さというきらいがないでもなかったが、トヨタがBEVに消極的だったのにはちゃんと理由がある。実は2040年に電動化100%という野心的な目標を発表したホンダも、BEVについてはつい最近まで消極的だった。

 両社に共通しているのは電動化技術について膨大な知見を蓄積しており、現在のBEVの技術で世の中のクルマを一気にBEVに転換するのがいかにリスキーであるかを熟知していることだ。

 BEVは現在の普及率くらいであれば別に何の問題も生じない。価格が高い、航続距離が短い、充電に時間がかかる、バッテリーが劣化すると電池の交換に高額な費用がかかるなどといった問題はユーザーが納得していればすむ話である。

■BEVへ一変することで起きる不都合とは

充電などのインフラの問題もあり、一朝一夕にBEVの世界とはならないのが実情だ(Artinun@AdobeStock)
充電などのインフラの問題もあり、一朝一夕にBEVの世界とはならないのが実情だ(Artinun@AdobeStock)

 が、近い将来世界で年間1億台に達する自動車のうち何割かをBEVにするということになると、話はまったく異なってくる。

 バッテリー製造の資源をどうするか、走らせるための電力をどうするかといった問題があるのはもちろんのこと、ちょっと交通需要が増えるたびに充電スポットにBEVが殺到し、長い待ちの行列ができる。

 充電に時間がかかれば、充電器を設置する業者のほうも採算が取れない。少なくとも5分で400km分くらいの電力を耐久性や安全性の懸念なしに充電できるようにならないかぎり、クルマは今までのように移動の自由を担保する乗り物ではなくなってしまう。

 将来的にはそういう技術も出てくるだろうが、そうなるまではハイブリッドカーを含む従来型のエンジン車のエネルギー効率改善でCO2低減を図るほうがベター――というのがトヨタ、ホンダに共通する基本スタンスだったのである。

■トヨタがBEVに舵を切った理由

 そのトヨタが急にBEVに前のめりになったのは、恐らくBEVが主流になっても大丈夫と言えるほど電動化技術が進化したからではない。もちろん技術はここ10年で進歩はしたが、ガソリン車やディーゼル車への置き換えができるにはほど遠い。

 問題はむしろ、世界各国の政府がカーボンニュートラル(CO2の排出量と吸収量を均衡させること)を旗印にBEV誘導政策を推進していることにある。もちろん既存のクルマの燃費を向上させることでもCO2排出量の削減は可能だが、今のBEV誘導策はその選択肢を事実上否定するものだ。

 いくらカーボンニュートラルを掲げたところでユーザーのほうが納得しなければ、電動化は進まない。例えばヨーロッパでは、ヴァカンスのシーズンになるとクルマで旅をする人が増える。日常ユースでも長距離走行の機会は日本よりはるかに多い。

 ドイツに本社を構える自動車部品世界大手、ZFで電動化技術の開発を手がける幹部すら「電動化と簡単に言うが、ユーザーが簡単にヴァカンスの習慣を捨てられるとは思わない。自分だって嫌だ」というほどだった。

■コロナをきっかけとした『SDGs』の波

コロナ禍以降、世界中で急速に推進されつつあるSDGs(beeboys@AdobeStock)
コロナ禍以降、世界中で急速に推進されつつあるSDGs(beeboys@AdobeStock)

 ところがここに来て、その空気に大きな変化が起こっている。きっかけとなったのは昨年来続いているコロナ禍だ。世界的流行が起こった当初から逆境をどう乗り切るかではなく「新しい生活様式」だの「ニューノーマル」だのと、元には戻さないことを前提とした号令が世界中で起こったことは記憶に新しい。

 パンデミックで国民の主権制限を行うことが可能という実感を抱いた各国の権力者たちは、その余勢を駆ってこれまでなかなか広がりを持てなかった「SDGs」(持続可能な開発目標)を一気呵成に浸透させようとしている。

 自動車分野はその典型で、いくらユーザーがBEVは不便だと思ったとしても「気候変動防止のためには我慢すべき」「行動様式のほうを変えろ」で押しまくれると踏んだのだ。

 もちろん、それで納得しないユーザーはなお多数残るが、その状況が永続的かどうかは不透明になってきている。各国でESD(持続可能な開発のための教育)が加速しているからだ。

 子供たちに「移動は悪」と道徳的に教え込めば、パーソナルモビリティを使って移動の自由を満喫したいという欲求を抑制することも不可能ではない。

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