■ホイールベースの長いトラックには内輪差がある
そして、もうひとつの問題が内輪差である。トラックやトレーラは極めてホイールベースが大きいが、それは右左折する際、後輪が前輪より内側を通る軌跡が大きいことを示している。これが内輪差だ。
左折時に自転車がこの内輪差に入ってしまうと、巻き込み事故となってしまう。「前輪が通ったからここまでは大丈夫」というのは、うかつな判断なのだ。
また、カーブがきつい場合など、大型トラックは左折時に右側に大きく膨らみ大曲がりする場合がある。これを右折と勘違いした自転車が突っ込んで事故に遭うケースもある。
トラックもそうだが、自転車も「大丈夫だろう」「行けるだろう」という判断は危険なのだ。最悪の場合に備えて「かもしれない」と予測することが大事だと思う。
■左折巻き込み事故に備えたトラックの対策
実は、トラックの左折巻き込み事故の問題に対して、行政もトラック業界も手をこまねいていたわけではない。前出の1978年の事故の際には、当時の運輸省はいち早く反応し、翌年に保安基準を改正した。
1980年10月までに新車、現行車を問わず、視野を拡大したバックミラーの装着、巻き込みにくいサイドガードバンパーの装着、車両サイドに補助方向指示器の装着を義務付け、さらに自動車教習所での左折時等の確認教育など徹底された。
さらに「左に曲がります」「ピピピッ」といった警報音の採用や、助手席ドアの「安全確認窓」なども採用されてきた。
余談だが「安全確認窓」は、日本に輸入されているボルボやスカニアには採用されていないが、これは国内トラックメーカー4社の自主基準だからだそうだ。
■巻き込み事故防止が先進安全性の柱に……
ところで、2018年秋にドイツ・ハノーバーで開催された「IAA国際商用車ショー」は、まさに自動運転をはじめとする商用車の「百年に一度の大変革」をアピールするショーとなった。
そのウェルカムイベントとして、ダイムラーがハノーバー空港で行なったデモンストレーションでは、実際に走行しているアクトロスやエコニックの周りを自転車に乗った女性が走り回り、あわやというところでトラックがストップ。やんやの喝采を浴びた。
これはダイムラーの先進安全装備「サイド・ガード・アシスト」のデモンストレーションで、2つのミリ波レーダーでドライバーの死角となる車両サイドを監視するもの。接近を検知するとAピラーの三角マークのLEDが黄色く点灯。衝突の危険性を検出すると、LEDが赤色に点灯し、警報音が鳴る仕組みだ。
■トラックが自動停止するさらにスゴい装備も……
2018年のダイムラーのイベントで見た「サイド・ガード・アシスト」は、実はもう普及期に入っている。
国土交通省は同様の「側方衝突警報装置」の義務付けを2022年5月から順次適用することにしている。すでに三菱ふそうが実用化しており、小型トラックのキャンターにも採用された。
特にスーパーグレートに装備された進化版の「アクティブ・サイド・ガード・アシスト1.0」は、従来の機能に加え、並走する歩行者・自転車の巻き込み防止を想定して、システムが衝突の危険を判断した場合、車速20km/h以下であればAEBS(衝突被害軽減ブレーキ)が作動し、制動回避行動を取るものだ。
また、ミラーの弱点を補うカメラの採用も左折事故防止に役立つことだろう。従来のサイドミラーに代わって、アクトロスなどで採用されているデジタルミラーは左サイドを鮮明に映し出してくれるものだ。
また、日本市場に登場した新型ボルボにはコーナーカメラなる装備が加わった。これは、サイドミラーのアーム下部に取り付けたカメラによって、運転席から見えにくい左サイドの視界を得ようというもの。
コーナーカメラは左ウィンカーと連動し、ウィンカーを点灯するとサイドディスプレイがカメラ画像に切り替わり、車両の左サイドの映像を映すというもの。常時表示することも可能だ。
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以上のように、先進安全装備の分野でも左折巻き込み事故を防止するデバイスが次々と登場している。だが、まずはヒューマンエラーによる事故をなくすことが一番大切だ。
自転車は気軽に乗れるところが大きな魅力だが、安全をお気軽に考えてもらっては困る。
日本の雑駁で狭隘な道路交通において、トラックドライバーにはなお一層注意を怠らないようにしてもらうとともに、自転車に乗る人もトラックに対する理解を深め、自分の身は自分で守る覚悟を持ってもらいたいと切に願っている。
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