ピックアップトラックをEVへの改造が容易な理由とは
かつて、まだ市販EVがなかった時代、ピックアップトラックはEVへの改造が容易な車種として注目された。理由は、車体と別構造のフレームを持つためだ。外から見える車体とは別にフレーム構造を持ち、ここにエンジンや駆動系、サスペンションなどが取り付けられる。生産財として仕事で使うクルマだけに、フレームを持つことで耐久性や頑丈さいっそう保証される。
そうした丈夫なフレーム構造があることにより、重量がかさむ駆動用バッテリーを車載するのに好都合なのだ。
もともと米国で人々に身近なピックアップトラックを、EVに改造することがすでに1990年代から行われてきた。米国では16歳で運転免許を取得でき、それによってはじめて親元を離れて外出ができるようになる。高校生にとって、運転免許証は親の手を離れる第一条件になるのだ。日本では簡単に鉄道やバスで移動できる生活環境があるので、クルマを運転できることが親の手を離れる自立につながることは実感しにくい。
そうした米国の高校生たちが、90年代から課外授業の一環として身近な車種でのEV改造をはじめ、学校対抗でその性能を競うことをはじめた。その一つがアリゾナ州で開催されたEVレースだ。そこには多くのピックアップトラックの改造EVが参加していた。
私も、1996年にダイハツ・ミゼットIIを購入し、EVに改造して所有していた。日本EVクラブ代表の舘内端が持つ同じ仕様のEVミゼットIIは、フランスへ空輸し、ミシュランが開催した98年の第1回チャレンジ・ビバンダムに参加して、ミシュラン本社があるクレルモンフェランからパリまで約400kmを走破している。
未舗装路での走行耐久性は? EVピックアップトラック今後の展開はいかに?
ピックアップトラックはそのように、自作のEV改造に適した車種であり、日常の移動で実用性を発揮することができる。それを自動車メーカーが実現したのが、テスラやフォードのEVピックアップトラックだ。米国市場を重視するトヨタにとっても、bZシリーズにピックアップトラックを加えるのは当然の成り行きといえるだろう。
舗装路だけでなく、未舗装路を走る可能性も出るピックアップトラックのEV化で、耐久信頼性はどうかとの懸念があるかもしれない。
しかし、新年にサウジアラビアで開催されたダカール・ラリーに、ドイツのアウディはEV技術を応用したモーター駆動で参戦した。総合優勝はトヨタ・ハイラックスだが、そちらはエンジン車であった。
アウディのRS・Q・e-tronは、正確にいえばシリーズハイブリッド、あるいはレンジエクステンダーといえるだろう。駆動はすべてモーターであり、フォーミュラEのモーター・発電機が使われている。これに、発電用としてDTM(ドイツ・ツーリングカー選手権)で使われた排気量2.0Lの直列4気筒ターボエンジンを併用する。これによって、競技中の走行距離を確保し、また砂漠地帯での充電拠点の課題を解決したのだろう。
総合成績では9位に終わっているが、完走し、また参加したドライバーすべてがステージ優勝するなど、走行性能や耐久性において、世界的にも初の参戦で充分な威力を発揮したといえるのではないか。
そもそも、モーターは1台のクルマが寿命を終えてなお、次のクルマでも使えるといわれるほど耐久性がある。また、リチウムイオンバッテリーも、廃車のあと、セルごとに性能を検査することによって、高水準を維持しているセルを集めEVへの2次利用もできる。
頑丈なフレーム構造はもちろん、乗用車においても丈夫なバッテリーケースに収められることによって、万一の衝突事故に際しても安全が保たれている。事故車から回収したバッテリーを再利用することも、品質を確認すれば不可能ではない。
制御に関わるコンピュータは精密機械であるから、取り扱いには配慮が必要だ。とはいえ、エンジン車もコンピュータなしでは走れないのであって、精密機器を車載することは特別なことではない。
以上から、ピックアップトラックやSUVなど、未舗装路を走る可能性のある車種でもEV化は何ら支障なく、逆に、近年の自然災害による対処には未舗装路での走行性能に長けたピックアップトラックやSUVがより活躍の場を広げることになっていくだろう。当然ながら、その際にはEVからの電力供給も考えられる。
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