■スポーツ走行にも有効な多段AT
さて、話を多段ATに戻すと、多段ATには大きなレシオカバレッジ=変速比幅を、たくさんのギヤで割ることで、ステップ比(前後するギヤ比の差の比率)を小さくできるメリットもある。
ステップ比が小さければ、加速中もそれほどエンジンの回転数を上げる必要がなく、変速ショックも小さいし、ギヤとギヤの繋がりもよくなり、加速フィールも気持ちいい。ただ、同じ多段ATでも、メーカーによって、そして車種によってステップ比は変わってくる。
燃費を重視する車種であれば、レシオカバレッジをできるだけ大きくとって、ステップ比もワイドレシオにする方向性だ。
しかし、燃費よりも運動性能、スポーティーさに重きを置く車種だとレシオカバレッジを広げすぎずに、ステップレシオを小さめにして、シフト回数を増やしても、ドライバビリティやスポーティーな伸びの良さに振ってくるケースが多い。
もうひとつ、遊星歯車を利用しているATは、MTやDCTと違って、多段化してもミッション自体があまり大きくならずに済むという特徴があり、その点でも多段化に適しているといえるだろう。
■DCTも軽くコンパクトに進化
最後にDCTにも触れておこう。トルコンなどを介さないDCTは伝達ロスの少なさとダイレクトさではATやCVTよりも優秀なミッション。
本格的なスポーツカーに好んで採用される2ペダルシステムだが、多段化するとスペースの面で不利になるのと、発進時の滑らかさや変速ショックの少なさでは、多段ATに軍配が上がる。
しかし、DCTでもポルシェの8速PDKや、フェラーリSF90ストラダーレのゲトラグ製の8速DCTなど、多段化は進んでおり、より軽く、省スペースで、燃費面でもプラスになるDCTも出てきた。
CVTはCVTで駆動損失を減らしたり、副変速機を付けてレシオカバレッジを広げたり、改良・改善を続けている。
肝心な多段ATに関しては、乗用車で使うことを考えると、12段、14段と段数を増やしてもさすがに旨味があるとは思えないので、10速ATぐらいで多段化の波は収まるはず。あとはDCTやCVTを横目で見ながら、改良改善を繰り返し、それぞれがミッション界の頂点をめざし、しのぎを削ることになるだろう。
一方で、EVやハイブリッド車のように、起動トルクが最大トルクの電動モーターが動力源になるとミッションの必要性は……。でもポルシェのEV「タイカン」にはZFの2速トランスミッションがついているし、ミッションの技術競争はまだまだこれからが本番かもしれない。
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