ドグトランスミッションによる俊敏な変速で、出力調整が可能に
E-TECHで採用しているドグトランスミッションの構造は、基本的にはMT(マニュアルトランスミッション)と同じですが、クラッチを使わずに変速するのが特徴です。変速時間が短縮できることが大きなメリットなので、F1のほか、かつてはスポーツカーでも採用されていました。
一般的なMTの機構は、シンクロスリーブの移動でギアとアウトプットシャフトを選択段だけ結合する方式です。変速の時は、まずクラッチを切り、選択されたギア段のアウトプットシャフトとギア連結して変速が完了します。この時、シンクロメッシュという機構によって、ギアの回転をアウトプットシャフトの回転に同期させ、スムーズに連結させます。
一方のドグトランスミッションは、クラッチで断続することなく、ギア同士を直接ギア側面のドグ歯(凹凸)の噛み合いで連結します。ギア同士の回転数をうまく合わせないと、変速ショックが発生しますが、車速やエンジン回転などのパラメータをうまく調整すれば、自動で俊敏な変速ができます。変速時のロスを解消できるので、その分燃費の向上が見込めます。
つまり、E-TECHにおいてドグトランスミッションは、エンジンとM/Gの回転数、出力を変速段によって調整するという、重要な役割を担っているのです。
欧州市場では、トランスミッションを搭載したシリパラが最適解
最後に、2つの疑問について考えてみましょう。
まずは、なぜルノーはすでに実績のある日産のe-POWERを使わないのか、です。ルノー・日産・三菱のアライアンスグループでハイブリッドシステムを共通化できれば、それだけ開発費やシステムコストを低減できるはずです。
もうひとつは、なぜコストのかかるトランスミッションを採用しているのかです。システムが似通っているホンダのe:HEVは、トランスミッションを搭載せず、高速運転に適した減速比に固定されています。
これらは、日本市場重視か、欧州市場重視かの違いによるものです。
シリーズハイブリッドの日産e-POWERは、長時間高速運転をすると、エンジンは発電しっぱなしの状態になり、しかも高速ではモーターの効率も下がってくるため、発電用エンジンの燃費悪化が顕著になります。
またトヨタTHS-IIやホンダe:HEVのようなシリパラハイブリッドでは、高速運転はエンジン走行になりますが、最高速度が比較的低めの日本の道路事情では、ギア比固定でも大きな問題にはなりません。しかし、高速運転の頻度の高い欧州市場では、エンジン回転やモーター回転を最適化できるトランスミッションと組み合わせることが、高速燃費の向上に有効なのです。
※参考:ドイツを除くヨーロッパ各国の高速道路での制限速度は、概ね110km/h~140km/h。ドイツのアウトバーンでは、全体の約70%が速度無制限となっていますが、常時工事や規制などが入り、稼働は50%程度のようです。
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ルノーが欧州市場での高速燃費を重視して、日産のe-POWERを使わずに独自開発したE-TECHを採用したのと同じように、日産や三菱が、同社のモデルへE-TECHを展開する可能性もないと思われます。日本市場では、E-TECHは過剰なスペックで高コストになるためです。
アライアンスによる共通化とはいっても、やはり市場それぞれの事情を考慮しなければ、ユーザーの求めるクルマを提供することはできないのです。
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コメント
コメントの使い方ホンダ e:HEVは,シリーズ型であり,シリーズ・パラレル切り換え型では,ありません。シリーズ型は,エンジン→発電機→(蓄電池)→駆動モーター と経由するため,電気的な損失が5~10%あります。スプリット型と比較すると,街乗りでは,回生量が大きいので,あまり差が出ません。しかし高速走行では,回生頻度が低く,車両重量が重いため,燃費としては,20%くらい悪化します。