■レストアが施される前のスープラ高市早苗号は今どんな状態?
というわけで、前置きが長くなってしまったが、レストアを施す前のスープラ高市早苗号を早速チェックしてみよう。
スープラ高市早苗号は2.5GTツインターボリミテッドのワイドボディで4AT仕様だ。1990年にA70スープラ最後のマイナーチェンジが行われ、そのタイミングで登場した追加グレードでもある。
スーパーホワイトパールマイカのボディに同色系サイドモールカラーが組み合わされている。インテリアカラーは非常に珍しいマルーンで、本革+エクセーヌのオプショントリムだ。オドメーターは7.7万kmを指していた。
選挙事務所に飾るため、ある程度磨かれたのだろう。10年以上も不動であったにしては、パッと見た目にキレイな状態だ。アシもしっかり立っている。タイヤはダンロップのルマン702。おそらく飾るために急遽、履いたのでは?
トムスのステッカーやパナソニックのカーナビ、そのダイバーシティアンテナ類、輸出仕様(っぽい)リアサイドマーカーなど、クルマ好きが乗っていた個体という雰囲気が全身から発散されている。室内には当時のカタログまで残されていた。よっぽど気に入って乗っておられたのだろう。
けれどもホイールセンターやモール、ウィンドウフレーム、ミラーベースなどボディ以外の塗色部位にはペイントの剥離や劣化が目立つ。
ちなみに取材時は不動で、そもそもバッテリーはおろか、燃料タンクも外されていた。初めて知ったのだが、バッテリーがない状態でも機械的にヘッドライトを開ける方法があった。開けてもらったところ、ヘッドライトには蜂の巣が。保管時に車体右側に陽が当たっていたのだろうか、そちら側の劣化が少し激しい。
インテリアのコンディションは年式相応だ。ダッシュボードの割れがひどく、珍しいカラーだけにレストアの難所になりそう。ステアリングホイールやインナードアノブなどよく使う場所もかなり劣化していた。翻ってあまり人を乗せたことはないのだろうか、特に後席などは新車のようだ。
とはいえ、奈良トヨタは以前にA70スープラのレストアを経験している(赤いボディカラーの個体)。エンジンやシャシー周りに関してはノウハウもバッチリで、問題なく進むことだろう。問題は内外装のプラスチックパーツをどう仕上げていくか。プロジェクトの進行が楽しみでならない。
完成後はもちろん、「まほろばミュージアム」にて展示される予定だ。完成したスープラ高市早苗号はもちろんのこと、近い将来、その蘇ったスープラの横に「日本人初の……」という謳い文句が飾られることを一後輩として大いに期待したい。
■レストア事業やまほろばミュージアムをオープンさせた奈良トヨタ代表取締役社長・菊池攻さんにインタビュー
インタビュアー/西川 淳、まとめ/大田中秀一、写真/タナカヒデヒロ
最後に、レストアが完成した車両を展示する自動車博物館「まほろばミュージアム」を2021年11月のオープンさせた奈良トヨタ代表取締役社長・菊池攻さんにレストア事業について話を伺った。
西川(敬称略):レストアを始めたきっかけと、これまでの車種についてまずは教えてください。
菊池(敬称略):2004年にある方から「このコロナ、菊池さんとこでなんかええようにできないか?」と訊かれたことがきっかけで二代目トヨペット・コロナ(1962年式RT20型)をレストアしました。それが始まりです。
10年後の2015年に全国トヨタ店プロジェクトのためのクラウン(1962年式RS31型)のレストアが2台目ですね。そして2016年に初代カローラ(1967年式KE10型)を手がけました。カローラ生誕50周年記念の年でしたから、じゃあシンボルであるカローラもやろうじゃないかということになって。
昨年2021年は奈良トヨタとトヨタカローラ奈良の合併という大事業があり、さらに今年は創立80周年という大きな節目の年を迎えます。
その2つを合わせた記念事業として“S&S80レストアプロジェクト”を立ち上げ、スポーツ800(1966年式UP15型)のレストアを手掛けることにしました。80周年、スポーツ800と8をかけたわけですね。
そんな最中にスタウト(1967年式RK101型)が突如現れたんですよ。ある団体の構内だけで使われていた個体で走行距離が「たった500キロ」。まさに「奇跡の個体」です。このお話をいただいた時はほんとうに驚きました。
それら以外にも「自分のもやりませんか?」と、社員から申し出があったスープラ(1992年式JZA70型)をはじめ、トヨタにとっては歴史的なモデルである初代セリカリフトバック(1975年式TA27型)やMR2(1989年式AW11型)もレストアすることになり、気がつけば8台になっていました。
西川:レストア専門チームがあるのでしょうか?
菊池:プロジェクトのたびに新しいチームを組んでいます。年齢も20代から50代までの男女で構成されたチームです。
世代や拠点が離れているためか普段はあまり突っ込んだ交流のないエンジニア達が、自動車の原点に触れながらコミュニケーションするなど、普段では得られない体験ができるのもメリットだと思っていますし、古い世代のクルマを触ったことがない20代のエンジニア達も興味津々で活き活きと作業してくれているようです。
個々人のアイディアや工夫を盛り込みながら情熱的に取り組んでくれているのも見ていて頼もしいですね。細部への拘り具合もすごいんですよ。日ごろ光が当たりにくいエンジニア達にスポットを当てたいという思いもあったのですが、成功していると思います。
レストア作業そのものは、週に一度「レストアの日」を定めて集中して行ってもらいました。一年に二台仕上げられるくらいのペースですね。
西川:実際のレストア作業において、特別な工夫やこだわりはありましたか?
菊池:例えばスタウト。引き取ったときには荷台がついていなかったので、ネットで探して北海道から取り寄せました。かなり錆びていたので一枚物の鉄板で作り直した部分もあるんですが、当時の資料を調べて新車時にはあった溶接痕をわざわざつけ、緩衝ゴム類も塊から削り出し、ステッカー類もワンオフで製作するなど、細部にも拘って仕上げてくれました。
また、ここにあるミゼット以外の個体は全てナンバー付きの動態保存なのでいつでも公道走行できます。手前味噌で恐縮ですが、どれもレベルの高い仕上がりになっていると思います。
スポーツ800とスタウトを“昭和レトロカー万博”に展示したときには黒山の人だかりができていましたし、「こんな完成度の個体は見たことがない」と言っていだだけました。
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