■まずは「非常ボタンを押す」
今回行われた研修はホーム、踏切および列車内での非常時対応について。その一部は一般の私たちでも同じような行動を取ることで、事故を未然に防ぐことができるものもあるのでご紹介したい。
まず大前提として、鉄道業界では異常事態が発生したら、列車を「停める」ことが先決される。これは自列車だけでなく、周囲を走行する列車についても同様だ。そのため、異常発生時は速やかに関係者にそのことを知らせる必要がある。
最近ではホームドアの設置が進み、ホームからの転落や触車事故は減少傾向だが、それでもホームドア未設駅や設置駅でも予期せぬ危険なシーンに遭遇することもある。その場合はホーム上に20m間隔で設置されている「ホーム非常ボタン」を押そう。このボタンが押されると、ホーム屋根部に設置された「非常報知灯」が点滅し、そのホームに発着する列車へ緊急停止を促し、同時に駅側でも何番ホームでボタンが押されたか、瞬時に把握できるようになっている。
また、踏切にも同様に「踏切非常ボタン」が設置されており、これは車の脱輪など踏切内に取り残されてしまった場合などに取り扱うスイッチ。こちらも強く押し込むことで、周囲を走行する列車に緊急停止を伝える信号が一斉に現示される。
どちらも列車を止めるスイッチなので、緊急事態を目の当たりにしても「もし間違いだったら多くの人に迷惑がかかる」と躊躇してしまうかもしれないが、正当な理由があれば仮にトラブルに繋がらなかった場合でももちろん罰則はなく、むしろ事故を未然に防げる正しい行為だ。
一方、「一刻も早く救助を」と正義感から、これらのスイッチを取り扱う前に一般人が線路内に立ち入るケースもまれに耳にするが、これは自身まで事故に巻き込まれかねない危険な行為。非常ボタンを押しても列車はすぐには止まることができない。非情にも聞こえるかもしれないが、まずは非常ボタンを押すとともに、線路内に絶対に入らないということを我々一般人の「できること」と認識しておきたい。
■乗務員への通報が最優先
続いて行われた研修は列車内。車内にも緊急時に備えて様々な装備がある。鉄道の乗降ドアは一般的に車掌がスイッチを操作し一斉開閉しているが、車内端部と車外には「ドアコック」と呼ばれる機能があり、これを操作すると1両全体のドアを手動で操作できる。ドアコックは緊急時にドアを開ける必要がある場合やドアに不具合が発生した際に取り扱うものだが、不用意に取り扱うと怪我や事故に直結するため、取り扱いに細心の注意が必要な機能でもあることから緊急に車内から避難しなければならないケースを含めて、まずは乗務員が安全を確保した上で一斉にドアを開けることが基本となっている。
近年、残念ながら散発している車内における凶悪犯罪などを鑑みると、確かに乗客自らドアコックを操作し、速やかに避難した方がいいようにも思えるが、列車が動いている最中に飛び降りてしまうのは大怪我につながるほか、他の列車が走行中であればそれに触車する可能性もある。さらに編成中1つのドアでも開いた(ドアコックを操作した)状態では、その列車は加速できなくなる仕組みになっている。これは、ドアが開いたままや、ドアに体や物が挟まったまま発車して事故が起こるのを防ぐための機能だ。
冒頭で異常時には鉄道はまず「停める」ことが先決されると明記したが、実は運転士は停止後の避難や火災を想定し、「トンネル」、「橋梁」、「その他停車する上でリスクがある場所」を避けて列車を停止させるように訓練されている。乗客から見えないところで、様々な判断がなされていることもある。そのため、乗務員の指示なく「ドアコック」を操作してしまうと事態の悪化を招く可能性もあるので、たとえ停車したとしても、まずは乗務員の指示を待つようにしたい。
そしてなにより、列車内でトラブルが起きた際にはまず乗務員にそのことを通報するのが最重要だ。車内には「車内SOSボタン」が取り付けられており、これを押すと乗務員と通話することができる。また、このボタンが取り扱われると運転士もすぐに停止操作を行う。ただ、これも速やかに緊急停止をするのではなく、様々な事態を鑑み、先ほどの例外3箇所を除いた箇所に停車させることが基本となるので、すぐに列車が停止しなかったとしても落ち着こう。
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