キングオブミニバンといえば、何を想像するだろうか。2022年3月現在では、「アルファード」がキングの名にふさわしい。しかし、1990年代後半から2000年はじめ、ミニバンのキングといえば「エルグランド」と言われる時期があった。
日本のラージサイズミニバン代表格である両車に、大きな差が生まれたのは、いつだったのか。販売現場から見えた、アルファード・ヴェルファイアとエルグランドの天下分け目の合戦を振り返る。
文/佐々木 亘、写真/NISSAN、TOYOTA
■市場を開拓し、王座についたエルグランド
1997年5月、初代エルグランドが誕生する。最盛期には月販1万台を超える大ヒットとなり、Lサイズミニバン、ひいては高級ミニバンの市場を切り開いたクルマだ。
全長約4.8mの車体に7人(8人)が快適に乗車できる空間は、バスでもバンでもない、新しい価値だった。
駆動方式はFR(4WD)、フロンドミッドシップにエンジンを置き、ハブナットは6本のP.C.D139.7mmと、貨物バンやマイクロバスのような雰囲気を残してはいるが、エルグランドのモダンな作り込みは、最新の「乗用車」そのものだ。
初代は2002年5月まで販売を続けられる。トヨタはグランビアを改良するなど、エルグランドの後追いを行ったが不発。
他メーカーでもエルグランドに追随できるクルマは無かった。エルグランドは、キングオブミニバンの名をほしいままにしたわけだが、2代目へのモデルチェンジとともに、その潮目が大きく変わる。
■密かなニーズ? FF・2.5Lを見抜いたトヨタ
2002年5月21日、エルグランドの2代目モデルが誕生し、販売が開始された。FRレイアウトは先代から踏襲したが、ハブボルト5本でP.C.Dは114.3mmへ変更し、両側スライドドアを採用するなど、高級乗用車としてしっかりと進化した。エンジンはV型6気筒3.5Lを継続し、余裕のある走りを実現している。
日産の独占状態にあった高級ミニバン市場。そこへ出した答えは2代目エルグランドだったわけだが、少々不足があったと思う。
各社の販売現場で、ラージサイズミニバンに対する要望が数多くあった。パッケージングやパワートレインといった、ユーザーのニーズに対して、ストライクゾーンを見定め、ボールを投げたのがトヨタだ。
2代目エルグランド発表の翌日にデビューしたのが、初代アルファードだった。エルグランドの後追い車種で、ボディサイズや豪華絢爛な内装はエルグランドと同様だが、大きく違ったのが駆動方式とエンジンである。
アルファードはエスティマ(カムリ)の基本コンポーネントを使い、駆動方式をFFにした。さらに税制面で有利な2.5L以下のエンジン(直列4気筒2.4L)をラインナップし、維持費の面でもエルグランドをリードする。
FFミニバンは一般化されており、室内を広く作れるFFの方が、ユーザーの好みには合う。地域によっては、駆動方式ひとつでクルマ選びが大きく変わり、FRよりもFFが好まれる場所も多い。エルグランドとアルファードを比較した時、圧倒的に販売現場が売りやすかったのはアルファードだった。
翌年の販売実績は、エルグランドが月販3,000台程度にとどまったのに対し、アルファードは月販約7,000台とダブルスコア以上の差をつけている。
高級車の王道であるFR・大排気量を進んだエルグランドに対し、乗用車(日常)の側面をしっかりと見ていたアルファード。どちらが多くのユーザーにリーチしたのかは、販売結果をみれば明らかだろう。エルグランドを追うクルマは無くなり、競争のトップにはアルファードが立つこととなる。
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