■ソニーBEVが市場にもたらす影響
それでは、ソニーのBEVが国内販売されたとして、その可能性についてみてみよう。BEVをメインとする、新エネルギー車の普及が目覚ましい中国では、そもそも内燃機関車の製造をメインとするメーカーも多いが、BEVのみを生産するメーカーも多い(マーケットが大きいので、とにかく多い)。
傾向としては、既存の内燃機関メインのメーカーは、あえて新会社を設立してBEVをラインナップするケースも目立つ。“●●新能源(新能源は新エネルギーの意味)”といった感じである。分離する背景にはいろいろあるのだろうが、イメージ戦略というのもあるだろう。
内燃機関車の延長線上にBEVがあるのではなく、“新しいもの”としてイメージを定着させたいようにも見える。もちろん、同じ自動車であるが携わるスタッフを変えることで“別もの”であることも強調できるはずだ。
デジタルカメラが世の中に出てきた時には、フィルムカメラの形をあえて引き継いだ。しかし、いまどきの若ものはスマホでの撮影がメインなので、カメラの形をしているほうが扱いにくいとの話も聞く。
内燃機関車からゼロエミッション車へ変わろうとする自動車も、カメラほど極端ではないが、ゼロエミッション化とともに、自動運転技術も進化していくので、いまとは異なる価値観で自動車というものが進化していくことになるだろう。
中国では“BEVベンチャー”ともいえる新興勢力も存在感を高めている。某ドイツブランドのBEV試作車の公道テスト風景を撮影した画像をネット上で検索したことがある。
ライバルメーカーのBEVが追走しているのだが、その1台が中国の“小鵬(シャオペン)汽車”のBEVであった。小鵬すら新興BEVブランドと呼んでいいのかと思うほど、中国では新興ブランドが数多く誕生している。
中国政府がBEV普及を本格スタートした直後には、補助金目当てで参入してきて、ロクに生産もしないでドロンというケースも目立ったが、いまは当時よりはビジネスとして、しっかり参入してきているようだ。
しかし、ブランドは目新しいとしても、例えば小鵬汽車の創業者は広州汽車に近い人物であったり、既存の自動車メーカーが起こした新興ブランドであったりするケースも多い。
いろいろなケースはあるものの、マーケットの“柔軟性”というのもゼロエミッション車普及には大切なのではないかと考える。政府が新興勢力の参入を積極的に認め、その新興勢力について資金面などを中心にバックアップする環境が整っているかである。
ただ、このような流れは中国やアメリカほどのマーケット規模がないと、なかなか難しいだろう(そもそも日本ではベンチャー企業は育ちにくい)。
ただ、ゼロエミッション車は今後30年や40年間自動車を運転する若い層が主役の商品となる。その意味では生産面でも販売面でも、極力いままでの100年間にわたる内燃機関車業界の価値観にとらわれないような、風通しの良い環境整備というものは必要となってくるだろう。
前述した、カメラの形をしたデジタルカメラは一眼タイプはではまだまだ主流だが、コンパクトデジタルカメラは、アメリカのホームセンターあたりではほぼ店頭で見ることはなくなっている。“内燃機関臭のより強いBEV”では、長続きしないし、若い消費者からはなかなか受け入れられないだろう。
■自動車販売の常識は通用しない?
2月上旬に日本での乗用車販売再参入を発表した、韓国ヒョンデ自動車は当面日本国内ではBEVとFCEV(燃料電池車)のみをラインナップし、オンライン販売のみとしている。
トヨタから正式デビューしたBEVとなるbZ4Xは、報道によると個人向けカーリースの“KINTO”と法人向けリースのみで取り扱うとしている。
まだまだ新車ディーラーの店舗へ出かけ、フェイスtoフェイスで値引き交渉を行い、現金一括払いも目立つのがいまの日本の新車販売。
しかしスマホでなんでも買えて、キャッシュレス決済が当たり前と考える若者から見れば、それだけでも自動車は“面倒くさいもの”となる。しかも所有するとなると、任意保険の加入など、さらに“ウザい”ことが多くなる。
ヒョンデの今回の日本市場再参入は10年後などある程度長期的ヴィジョンを持ってのものと考えるので、ターゲットを絞り込んだ戦略(次世代を担う若い世代)に見える。
そして仮にbZ4XがKINTOメインとなるならば、本格販売するBEVであるので、手元に置いてしっかりメンテナンス管理していきたいとの狙いもあるのだろうが、あえて“所有しない乗り方”に絞り込むことで若い層へのアピールを狙っているのかもしれない。一部報道では、BEVのリセールバリューに不安を覚える消費者向けの対策ともされていた。
ゼロエミッション車は同クラス内燃機関車に比べれば価格はかなり高い。各国政府ともに補助金制度を設けて普及をはかろうとするが、中国で流行っている低価格マイクロBEVでもない限りは、補助金交付を受けても割高感を拭うことはできない。
となると、消費者が所有して乗ることによっての普及ではスピードに弾みがつかない。
長期的に見ればゼロエミッション車の“お得意様”となる若年層も自動車の所有などは、自分の人生の中で想定していない人も多いだろう。価格の割高感は長期的に続くものと見なければならないので、低所得者層へ向けてはコミュニティ単位でのカーシェアリングでの利用促進強化の検討も必要となってくるだろう。
そして日進月歩で技術がまだまだ進むのがゼロエミッション車なので、一般需要は個人向けカーリース(いまどきではサブスク)メインで短期間に車両を入れ換えてもらうのが理想的だろう。買い取りで乗ることができるのは、一部富裕層に絞り込むぐらい限定的にしたほうがいいかもしれない。
ちなみにテレビを見ていたら、ある空調会社がアフリカ某国でエアコンのサブスクリプションを行っているとのこと。高温多湿でエアコン需要は見込めるが、所得に対しエアコン価格が高く、買い取りでは普及がなかなか進まないとの判断だったようだ。
とにかく、販売面も含めてどこまで“いままでの自動車の臭い”を消すことができるかが、ソニーのBEVについては国内で成功する鍵を握っているように見える。
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