高価なEVはお金持ちの証か? 誰もが買えるようにするために何が必要なのか?

■EVを買う人は自宅で充電できる人!?

BMW iX。巨大なキドニーグリルに穴は空いておらず、グリル風の柄が描かれている
BMW iX。巨大なキドニーグリルに穴は空いておらず、グリル風の柄が描かれている

 世界初の量産EVである三菱i-MiEVと日産リーフは、いずれも世界に先駆けて2010年に発売された。しかしあまり売れなかった。クルマの良し悪し以前に自宅で充電できる人しか検討しなかったからだろう。

 だからその後に登場したPHVやEV、とりわけEVの多くが、自宅に充電環境を確保できる富裕層をターゲットにした高価格のモデルが中心だったのは自然なことだ。

 テスラモデルSが2012年発売(日本は2013年)と図抜けて早く、その5~6年後にジャガー I-Pace、メルセデスベンツEQC、アウディe-tron、ポルシェ タイカンが続いた。

 最近発売されたBMW iXも富裕層向けEVの一台だ。巨大なキドニーグリル(穴は開いていない)によってBMWであることは一目瞭然。水平のリアコンビランプは初期の携帯電話の顔文字のようで面白い。

 上級の50は前車軸に最高出力258ps、最大トルク365Nmの、後車軸に同313ps、最大トルク400Nmのモーターを備え、システム全体で同523ps、同765Nmを発揮する。

 これだけのハイパワーモーターが前後に組み込まれ、四輪を駆動するのだから遅いわけがなく、車両重量2530kgをものともせず、0-100km/h加速4.6秒。ワープのように発進する。

 もちろんマイルドに踏めばマイルドに加速する。走行フィールはなめらかそのもの。アクセルペダルを戻せば強い減速が得られる。エアサス特有の当たりの柔らかい乗り心地は快適。EVならではの高い静粛性と相まって、おしゃれなリビングルームでくつろぎながら移動しているような感覚に包まれる。

 バッテリーの総電力量は111.5kWhと市販車として最大級だ。一充電走行距離は650km(WLTCモード)。車両側は最大出力150kWでの急速充電に対応する。これなら残量がなくなった状態からでも40分で80%まで回復させられ、約500km走行できる。

 ただ残念ながらそこまでの性能をもつ充電器が日本にはまだない。次世代型CHAdeMOが普及した暁には真価を発揮するだろう。

 ユニークなのは、静粛性を活かして音で遊んでいること。スタートボタンを押した時の効果音やドライブモードごとに変わるアクセル操作と連動したサウンドが実に凝っているのだ。

 サウンドを手掛けたのは数々の映画音楽を手掛けるハンス・ジマー。道理でカッコいいわけだ。昨年の映画『007ノータイム・トゥ・ダイ』のクライマックスでは、彼の音楽に泣かされた。

 はっきり言えば、EVはすべからく十分なパワーがあって加減速はスムーズ、低重心でハンドリングも良好なため、走る、曲がる、止まるといった基本性能で差別化を図りにくい。EVはユニークなデザインとサウンドで遊ぶiXのように、これまでになかった付加価値による競争になってくるのだろう。

■EVを実用車として普及させるためには

トヨタ bZ4X。トヨタの英国法人が発表した価格はエントリーグレードで日本円にして600万円中盤となっている
トヨタ bZ4X。トヨタの英国法人が発表した価格はエントリーグレードで日本円にして600万円中盤となっている

 1000万円級ラグジュアリーEVの発売ラッシュに続き、ここへきて500万〜1000万円級EVの発売が相次いでいる。

 プジョーe208、e2008、シトロエンe-C4、DS3クロスバックE-TENSE、ボルボC40、ホンダe、マツダMX-30EV、メルセデス・ベンツEQA、BMW i4、iX3、レクサスUX300e、トヨタbZ4Xとスバル・ソルテラ……。

 ちなみにやっぱりこれらが発売された数年前にテスラモデル3が発売され、ダントツの累計販売台数を誇る。何事も早すぎるがゆえに波紋を広げがちなテスラだが、EVの先鞭をつけた存在であるのは間違いない。

 EVには1000万円を堺にその上と下に商品群が形成されつつあるが、アンダー1000万円といってもほとんどは500万円以上のため、EV全体が自宅に充電環境を整えられる層向けのマウンティングアイテムとしての側面は相変わらずだ。

 まもなくフィアットが500ベースのEV、500eを発売し、日産、三菱も今年のどこかで新型のEV軽を発売する。500eは400万円以下、日産三菱の軽EVは300万円以下であることが予想される。

 しかし車体が小さく価格が安いとなると、確実にバッテリー容量は小さく、航続距離は短い。そうなると余計に自宅充電が基本となる。だからEVは車両価格が安くても、やっぱりマウンティングアイテムとしての性格は帯びたままだろう。

 EVが真に実用車として普及するのに必要なのは、車両価格が下がることや車種が増えることではなく、街なかに充電環境が整うことだ。

 車種が増えないとユーザーが増えないから充電器も増えないというジレンマはあるが、EVを増やしたいのはメーカーやユーザーではなく政府だということを考えると、民間よりも行政が努力して環境を整えるべきだ。

 i-MiEVや初代リーフが登場した2010年頃に全国に数百台しかなかった急速充電器は、現在は8000台弱存在する。そして政府は2030年までに3万基を設置する目標を掲げている。

 何基あれば十分なのか明言できないが、とにかく街なかのいたるところにあって、買い物や食事のついでに短時間の充電を繰り返すことができるようになれば、EVはマウンティングアイテムに留まらず、便利で快適な乗り物になるはず。そうなったら私も引っ越さないでもEVを買える!

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