排気量が小さいと、燃焼効率が低下して燃費・排ガスが悪化
ディーゼルエンジンは、基本的に大排気量に適したエンジンです。例えば、船舶用ディーゼルエンジンは、総排気量が2000万cc以上でボア(シリンダー直径)は1mを超え、人がシリンダーの中に入れるようなものも珍しくありません。こんなに大きくても、ディーゼルは効率よく燃焼させ、安定した運転ができるのです。
一方で、排気量が小さい1気筒あたりの排気量が300cc、ボアでいえば70mm以下になると、軽油を効率よく燃焼させることが難しくなります。その理由は、ディーゼルエンジンの燃焼方式に起因します。
ディーゼルエンジンは、高温になった圧縮空気中に軽油を噴射し、蒸発した軽油が燃焼室全域で拡散しながら自己着火する燃焼方式です。ボアが小さい小排気量エンジンでは、噴射した軽油がシリンダー壁面やピストン頂面に付着しやすくなります。その分、燃焼効率が低下して、燃費や排ガス性能が悪化してしまうのです。
ボアとピストンストロークが同じスクエアエンジンを想定すると、2.0Lの4気筒エンジンのボアは約85mm。排気量660ccの軽自動車では、4気筒エンジンの場合は165cc/気筒でボアは約60mm、3気筒なら220cc/気筒でボアは約66mm、これだけボアが小さくなると、ディーゼルエンジンの燃焼効率は著しく低下します。
ちなみにガソリンエンジンは、圧縮されたガソリン混合気に点火プラグの火花で着火し、火炎が燃焼室全域に拡がる火炎伝播燃焼。基本的には、高速型の小排気量に適したエンジンなのです。ボアが100mmを超えるような大排気量エンジンでは、火炎が安定して伝播し難くなるので、効率のいい燃焼ができなくなります。
コストアップが避けられない
近年のディーゼルエンジンは、クリーンディーゼルと呼ばれ、噴射技術や排ガス低減技術が高度化し、燃費や排ガスが飛躍的に改善しています。しかし、国内のディーゼルエンジン搭載車のシェアは7~8%程度で停滞し、今後も人気が高まる気配はありません。
その最大の理由は、ディーゼル車の価格が高いことです。頑強なエンジン本体、コモンレール噴射システム、後処理(排ガス低減)システムなどのコストが、ガソリンエンジンに対して15万~25万円ほど高く、特に後処理システムについては、ガソリンエンジンは比較的安価な三元触媒ですみますが、ディーゼルエンジンでは酸化触媒、DPF(ディーゼル微粒子除去フィルタ)、NOx低減触媒(通常は尿素SCR)が必要。乗用車ディーゼルでは、この後処理システムだけで10万円以上かかることもあります。
軽のディーゼルエンジンでも、基本的なシステム構成は同じなので、エンジンが小さい分だけコストアップが抑えられるわけではありません。安さが売りであり、クルマ全体のコストが小さい軽自動車では、ディーゼル化によるコストアップ分の負担は、より大きくなってしまうのです。
振動・騒音の悪化が避けられない
高圧縮比で過給しているディーゼルエンジンでは、燃焼時のシリンダー内の圧力が高いため、振動と騒音(燃焼音)はガソリンエンジンよりも大きくなります。クリーンディーゼルエンジンでは、噴射の自由度の高いコモンレール噴射システムを使って、燃焼が緩慢になるようにして振動・騒音を抑えています。それでもガソリンエンジンに比べると、振動と騒音の差は明らかです。
ちなみに欧州のディーゼル車では、車室内に騒音が入り込まないように遮音性能を高めたり、エンジンを固定するエンジンマウントを改良して、振動・騒音を抑える対策を行っています。しかし、これはコストをかけられるクルマだからできるのであって、低価格の軽自動車ではそういうわけにはいかず、軽自動車にディーゼルエンジンがない理由のひとつとなっています。
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