■FFミニバンの元祖・ステップワゴンの停滞
初代ステップワゴンは、全高が1800mmを超えるスライドドアを備えたミニバンでは、最初の前輪駆動車だ。既存のミニバンに比べて床が大幅に低く、乗降性が優れ、室内高にも余裕があり、重心が下がるから走行安定性も良かった。
しかも初代ステップワゴンの外観は直線基調で新鮮味があり、ウインドーの面積も広いから、車内が明るく広く見える。当時のミニバンには「幸せな家庭の象徴」というイメージがあり、ステップワゴンはそこにピッタリと当てはまった。
2001年にフルモデルチェンジされた2代目ステップワゴンも、同年に11万台以上を登録している。初代モデルの発売直後よりも、売れ行きを伸ばした。
ところが2005年に登場した3代目は伸び悩んだ。同年の売れ行きは9万1000台少々で、2006年には8万台以下まで下がった。
その原因は、逆説風の表現だが、2代目よりも低床化を進めたからだ。床はさらに60mm低く、乗降用のサイドステップ(小さな階段)を取り去り、乗降性は抜群に向上した。
低床化によって、十分な室内高を保ちながら全高を75mm下げることが可能になり、1770mmになった。天井と床を下げた結果、大幅に低重心化され、走行安定性と乗り心地も向上している。
このように3代目ステップワゴンは、乗降性、走行安定性、乗り心地を中心に機能を大きく高めたが、前述の通り売れ行きは低迷したのだ。
その理由は、3代目ステップワゴンの合理的なクルマ造りが、ミニバンを買う人達の好みに合わなかったことだ。
ミニバンの購買層は、車内が広そうに見える存在感の強い立派な外観と、車内に入った時の周囲を見降ろす感覚を好む。それなのにステップワゴンは、天井と床を低く抑えたから、外観の存在感は弱く乗員の見降ろす感覚も乏しい。そのために売れ行きを下げた。
機能的には、クルマの天井と床は、必要な最低地上高と室内高が確保されれば低いほど良い。天井と床面を高めて得られるメリットはひとつもないが、それは「売れるクルマ造り」とは必ずしも合致しない。
2009年に登場した4代目は、3代目ステップワゴンの失敗を受けて、全高を再び1800mm以上に設定した。2010年の登録台数は8万台を超えたが、人気は長続きしなかった。
2015年に発売された5代目の先代型は、1.5Lターボエンジンを搭載したが、フロントマスクはエアロ仕様のスパーダを含めて地味なデザインで登場した。開発者に理由を尋ねると「今のミニバンはどれも派手だから、ステップワゴンはスパーダを含めてシンプルに仕上げて個性を表現した」と説明した。
それが2017年のマイナーチェンジでは、スパーダの顔立ちを派手に変更して、ハイブリッドもスパーダのみに追加した。標準ボディは放置されている。開発者に理由を尋ねると「売れなかったのでスパーダは顔を派手に変えた。標準ボディは販売不振だったので、ハイブリッドも搭載していない」と述べた。
新型も同じことを繰り返している。開発者は「ミニバンを買うお客様の70%は、派手なオラオラ顔を好む」といいながら「ステップワゴンはシンプルな雰囲気を求める30%のお客様を対象に開発した」という。
そこで新型ステップワゴンは、標準ボディにエア(空気のような親しみやすい存在)というグレード名を与えて、エアロ仕様のスパーダとは明確に区分した。新型ステップワゴンが「シンプルな雰囲気を求める30%のお客様を対象とする」なら、その世界観を明確に反映させた主役はエアになる。
ところがグレード構成と装備を見ると、後方の並走車両を検知して警報するブラインドスポットインフォメーション、2列目シートのオットマン、電動式テールゲートといった人気の装備は、エアには設定されずスパーダでないと装着できない。
これではステップワゴンの新しい世界観に共感してエアの購入を考えたユーザーも、結局はスパーダしか選べないことに気付く。そうなると「どうせエアロを買うなら、先進装備を満載したヴォクシー&ノアがイイ」と判断されてしまう。
以上のようにステップワゴンは、初代と2代目では成功したが、2005年に登場した3代目の「良いクルマ造り」で失敗したことが切っ掛けになり、ミニバン市場に対する正確な判断力を失った。この状態が今も続いている。
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