シーマとアリストの興亡 世界に誇ったプレミアムスポーツセダンの行方

■プレミアム4ドアにツインターボで武装

クラウンがあるので、アリストは思い切りスポーティにすることができた。

もちろん、プラットフォームやパワートレインなどのメカニズムはマジェスタのものを用い、それをスポーティに味付けする。ベールを脱ぐのはバブル崩壊後の1991年10月だ。

トヨタ初代アリスト。1991年10月発売。トップグレードに搭載された直6ツインターボの2JZ-GTE型エンジンは、スープラとアリストにしか採用されていない

デザインは、トヨタとつながりが深いイタルデザインのジョルジェット・ジウジアーロにお願いした。基本デザインをジウジアーロが手がけ、それをトヨタのデザイナーがブラッシュアップしている。

マジェスタがピラードハードトップだから、アリストはセルシオと同じようにプレスドアとした。ロングノーズ&ハイデッキのダイナミックな4ドアセダンで、フロントマスクもリアビューも個性的だ。

それまでのトヨタ車にはない、独特の雰囲気とどっしりとした落ち着きがある異色のプレミアムスポーツセダンだった。

メカニズムもすごい。デビュー時のパワーユニットは3L(2997cc)の直列6気筒DOHCとDOHCツインターボである。自然吸気の2JZ-GE型も設定するが、主役はターボで武装した2JZ-GTE型だ。

 セラミック製2ウェイツインターボを装着し、最高出力は自主規制枠いっぱいの280ps/5600rpmを発生。規制のない最大トルクは44.0kgm/3600rpmを誇る。ミッションは電子制御4速ATだが、リミッターを外せば250km/hを難なく超え、ゼロヨン加速も13秒台を記録した。史上最強のプレミアムセダンだったのだ。

最新のシャシーに組み合わせられるサスペンションは、4輪とも設計自由度の高いダブルウイッシュボーンで、サブフレームで補強を行い、パフォーマンスダンパーも装着した。また、ターボ搭載の3.0Vはピエゾ素子を用いた電子制御サスペンションのTEMSを装着している。走行制御システムには時代に先駆けて4輪ABSとトラクションコントロールを採用した。セダンとは思えない意のままの気持ちいい走りを手に入れ、ワインディングロードでも速さは際立っている。

月販目標は驚異の3500台だった。マークXでも月販1000台に届かない月もある現代では考えられない設定値だが、それでも発売直後は納車待ちになるほど売れた。

最大のライバルだったシーマは1991年秋にモデルチェンジし、2代目となっている。

こちらはハイパフォーマンスセダンとしてのレッテルをはがし、高級路線へと転換した。ターボ車の設定はなく、パワーユニットは4.1LのV型8気筒DOHCだけだ。後に3LのV型6気筒を追加するが、トヨタと真っ向勝負を避けたのか、性能的には初代モデルと同等にとどまっている。

■ブームの終焉、静かにバトンを渡し退場

振り上げた拳を下ろせなくなったトヨタは1997年夏に2代目アリストを送り込んだ。フロアから新設計とし、エンジンの搭載位置もこだわって前後重量配分の最適化を図っている。

トヨタ2代目アリスト。初代から一転して社内デザインとなり、独自プラットフォームを採用。経団連と日経連の会長を歴任した奥田碩社長(当時)も愛車にしており、豊田本社から東京本社へ自らハンドルを握って東名高速を爆走した、という伝説があった

トップグレードであるV300が積むのはVVT-iを導入し、ドライバビリティを向上させた3Lの2JZ-GTE型直列6気筒DOHCツインセラミックターボだ。最高出力は280psのままだが、最大トルクは46.0kgmに引き上げている。

オーバーハングも切り詰めているから走りの実力は初代を上回った。

が、1997年というと高級車もマルチパーパスのミニバンが主役となりつつあったし、パフォーマンスに対する興味も失せており、一部に根強いファンを抱えるスマッシュヒットとなるものの、往年の輝きに比べるとやや小粒なヒットであったと言わざるをえない。

結局アリストは2004年に姿を消し、(日本市場へのレクサスブランド上陸にともない)その後継としてレクサスGSが登場する。

だが(2005年に登場した、アリストの後継車にあたる3代目)レクサスGSは、アリストのようにハイパフォーマンスを前面に押し出したスポーツセダンではない。日本市場を席巻したシーマやアリストは、欧米の自動車メーカーも驚嘆した異次元のプレミアムスポーツセダンだった。

シーマを含め、日本のこのカテゴリーは技術的にもデザイン的にも世界の最先端を行っていただけに、現在はほぼ消滅してしまったのは残念と言うしかない。

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