最軽量、最廉価、そしてロングストロークの隠れた名車―― ダイハツ・エッセの魅力と知られざる真実

■購入して分かった「フェラーリ的」な部分!

 それから約1年半後。私はその幻の名車を、中古で手に入れた。友人が、私がいろいろな雑誌でエッセを絶賛しつつ、ECOへの憧れを綴っていたのを読み、ズバリ「エッセECO」(5速MT)を買ったのである。

 彼は性能的には満足したが、オレンジ色のエッセは都内で周囲のクルマにナメられまくり、人間不信に陥りそうになったということで、「もう手放すけど、買う?」と打診が来たのである。走行距離わずか2200キロ、4カ月落ちでたった45万円。しかもオプションの電動格納ドアミラーとCDオーディオ付き。新車価格は68万2500円なれど、支払い総額は90万円近かったはず。涙が出るほど安い買い物だった。

筆者が手に入れたエッセ エコ。5速MTでボディカラーはオレンジだった
筆者が手に入れたエッセ エコ。5速MTでボディカラーはオレンジだった

 感動の初走行の第一印象は、「ミッションが渋い……」だった。特に1速の入りが悪い。ダイハツはもうMTなんてほとんど作っていなかったので、きっとかなり昔に開発したミッションを、そのまま使ったのだろう。思えば、私が愛するフェラーリも、ミッションの入りはシブいし固い。「つまりこれはフェラーリ的なのだ」と解釈することにした。さすが世界の頂点同士である。

 その一方で、エンジンは素晴らしかった。これまたフェラーリ的である。スバラシイのはトップパワーではなく低中速トルクだが、MTで味わうKVエンジンの低速トルクは、想像通りとてもステキだった(660㏄ノンターボとしては)。なにしろアイドリング発進ができたのだ。それまでの軽は、「ウィ~~~~~ン」という安っぽい音とともに、やっとこ発進するイメージだったから、その差は大きかった。

 逆にハンドリングは、あまりの初期ゲインの低さ、つまりステアリングの反応の鈍さに、改めて驚いた。ダイハツとしては、エッセをスポーティに仕上げようという意図はゼロ。地を這う実用車として開発したため、可能な限りダルな、つまり急ハンドルを切っても何も起きないセッティングに仕上げたのだ。こちらとしては、軽量・トルクフルなクルマゆえ、スポーティという感覚があったので、あまりにもスローなステアリングギアレシオに、ある意味ズッコケた。

 その点を除けば、エッセは素晴らしいクルマだった。当時私は、さまざまな媒体で愛車を自慢した。「自動車趣味としてはフェラーリが頂点であり、実用車としてはダイハツの軽が頂点。その両車の組み合わせこそ、究極のカーライフと言えるのではないでしょうか!!」とか、「貧乏臭いエンジン音とも無縁。パワフルで高速巡航も問題なし、どんなに狭いコインパーキングにもラクラク入れられて最高」とか、「安くて、20km/L走って、首都高でも無敵」とか、「余計な装備が一切ないところは、イタリアの大衆車的でオシャレ。解脱の境地に達した、孤高のクルマ趣味人におすすめしたい」といった具合である。

 しばらくすると、あまりにも簡素な装備に、不満が高まり、タコメーターと、後付けの激安集中ドアロック(前席だけ)を装備したが、それもまたカーマニア的なヨロコビだった。その頃はすでに、エッセはカーマニア人気の盛り上がりによって、5速MTモデルが拡充されていた。充実した装備を持つ「カスタム」の5速MTは、マニアの間で密かな人気モデルとなった。

 前述のように、エッセは一代限りで絶版となり、ミライースへとバトンタッチした。エッセがおおむねマニア受けだったのに対して、ミライースはリーマンショック不況の中、「第三のエコカー」として大々的に売り出され、かなりの販売実績を上げた。しかし今、マニアの間で語り継がれているのは、ミライースではなくエッセのほうだ。時の流れは、クルマの本当の価値を浮き上がらせるのである。

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